現場のマネジャーに求められる本質的役割とは?
[2015/03/30]
組織のマネジャー。
日常的によく使われる言葉ですが、マネジャーとはそもそもどのような立場で、どのような役割が求められるのでしょうか? わかっているようでありながら、いざ説明を求められると、答えるのが難しい問いですね。
みなさんの中には、「もうすぐマネジャーになるだろう」「最近、マネジャーに昇格した」という人も少なくないと思います。
そうした人にぜひお薦めしたいのが、マネジメントの基本を学習することです。なぜなら、マネジメントの基本を理解していないと、目指すべき方向性を誤ってしまう可能性があるからです。場合によっては、不安が先行してしまったり、無駄に悪戦苦闘する状態を生み出してしまったりするかもしれません。
マネジメントの基本とは何なのか? 階層別研修や通信講座の教材開発などの講師として活躍するマネジメント・コンサルタント、木村喜子さんにおうかがいしました。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
マネジメント・コンサルタント
木村 喜子 さん
塗料メーカー販売代理店総務部勤務後、大学ゼミ教材および自費出版の編集者を経て、1987年にマネジメント・コンサルタントとして独立。25年以上、階層別研修講師および通信教育教材・研修教材・企業オリジナル教材等の企画開発と執筆に多数携わり、現在に至る。
How toを学ぶ前に重要なこと
今はマウスイヤーの時代だと言われます。技術、特にIT技術の進歩・進展が速いことを、人間よりも犬よりも速く成長するネズミに例えた言葉です。このようにビジネスを取り巻く環境変化の激しい時代ですから、マネジメントに関わる着眼点もどんどん変わっています。リスクマネジメント、ナレッジマネジメント、ファシリティマネジメント、CSR(企業の社会的責任)などです。たとえばリスクマネジメントという概念は、以前は海外における危機的な状況への対策や対応を指す内容が主流でした。しかし、今ではさまざまなリスクが顕在化していますので、非常に細分化されています。ナレッジマネジメントについても、ITが一般化する過程で大いに注目されていましたが、現在は当時ほど声高に言われなくなりました。
これらのマネジントに共通することは、環境や時代の変化による移り変わりがあるということです。How toが中心になっているため、ニーズに対応して学ぶ内容が変化することになるのです。もちろん、How toを学ぶことはけっして悪いことではありません。とても大切なことです。
ただ、How toを学ぶ前にもっと重要なことがあります。それは「マネジメントとは何か?」を理解するということです。「マネジメントとは何か?」という基本のWhatをしっかりと理解していることが、各種のマネジメントを学ぶ基本的前提となるのです。
しかし残念ながら、研修や通信講座の指導に携わっていると、「マネジメントの基本を知らない人が、かなり多いのではないか」と感じることがあります。ある困った状況を目の前にして解決を図る必要に迫られたとき、問題を収束させるよりも、さまざまに手を打ち過ぎて、問題を拡散するケースが多いのです。迷ったときには基本に戻ることが重要ですから、環境変化の激しい今こそ、普遍的である基本を学ぶ必要があるのではないかと思います。
組織人には立場と役割がついて回る
マネジメントの基本とは何でしょうか? それは、組織におけるマネジャーの立場と役割を学ぶことから始まります。
組織とは、1人では不可能な問題解決や課題達成のために、2人以上の人々が協働する仕組みです。組織で働く人は、この仕組みの中で共通の目的を達成しようと活動することによって報酬を得ます。マネジャーはそれを十分に理解した上で、自部門で目的や課題の達成に向けて経営資源を活用し、人(メンバー)を動かす存在です。これがマネジャーの立場と役割だと言えるでしょう。
立場で物事を判断し発言するというと、本音よりも建前が先行するイメージで、少し堅苦しく感じられるかもしれません。しかし、組織というものは、ある意味、建前によって成り立っています。建前がなく、構成員全員が本音で行動したら、ルールは守られません。立場をわきまえて建前を意識するからこそ、ルールが守られるのです。
あなたが取引先の担当者と仕事の話をする時も、相手はあなたのことを組織の窓口という立場で捉えます。個人として話をするわけではありません。もしビジネスの場で「個人として本音を語りたい」という人がいるならば、その人はビジネスに携わる人として、まだ半人前だと言わざるを得ません。組織の一員という立場と役割を自覚・認識して行動できることで、初めて一人前と言えるのではないでしょうか。
マネジャーの本質的な役割は4つ
では、組織の目的を実現するために、マネジャーにはどのような役割が求められるのでしょうか。マネジャーの本質的な役割は4つあります。
1 環境のニーズに応える組織の目的を設定すること。
2 組織成員の欲求を充足させることによって、協働の意思を確保すること。
3 協働の意思を共通の目的実現に結集させるために、コミュニケーションを円滑に維持すること。
4 組織成員の能力を開発すること。
これは、日本マンパワーの通信講座『ベーシックマネジメント21』のテキストに記載されているものです。私は『ベーシックマネジメント21』の指導にも携わっていますが、この講座はロワマネジャーやマネジャー候補の方にとって、マネジメントの基本を学習するのに最適だと思います。組織におけるマネジメントの基本が凝縮された教材だからです。
私は、『マネジメント【エッセンシャル版】』(ダイヤモンド社)などで著名なドラッカーが大好きですが、基本に立ち返る必要があるときには、『ベーシックマネジメント21』のテキストを読み返します。今でも読むたびに、マネジメントの基本は新鮮で面白いと感じると同時に、つくづく重要と思います。
たとえば、基本の1つであるPDCA:Plan(計画)−Do(実行)−Check(評価)−Action(処置)や5W2Hの活用。現在、多くの組織で現場が抱えている問題のほとんどは、PDCAか5W2Hのいずれか、もしくはその組み合わせによって生じています。ですから、問題の解決もその視点を取り入れる必要があります。目標達成や職場活性化の問題にしても、仕事的な側面と人間的な側面から分けて整理し、それぞれの立場と役割を明らかにすることで、改善策を導き出すことができます。
マネジメントの基本を学ぶということは、現場のマネジャーにふりかかっている諸問題に対応するための、姿勢と考え方の根幹を学ぶということなのです。
ぜひマネジャーに挑戦を
スペシャリスト志向の多い昨今は、「マネジャーになりたくない」と思っている人が少なくないかもしれません。でも、マネジャーになるチャンスが来たときは、怖がらず覚悟をもってぜひ立ち向かってください。
マネジャーになるということは、ビジネスパーソンとして成長する過程の一歩でもあります。「同僚との関係が乖離するのでは?」と不安になるかもしれませんが、立場に伴う役割と責任を引き受けることは、その後の職業人生に大いに役立ちます。部下の人生にも影響を与える責任を伴う立場ですが、世の中に責任の伴わない仕事はありません。
マネジャーのあり方が問われる今だからこそ、機会に恵まれたら、マネジャーに挑戦することをお勧めします。そのときのために、ぜひマネジメントの基本を学んでください。