ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.78

未来へ向かうエネルギーを生み出すために「経験から学ぶ」

[2015/03/30]

 大学を卒業して社会に出てからも、キャリア支援センターが中心になって卒業生を支援し続けている——先月公開の「ハッピーキャリアの作り方 vol.77」で、そうしたお話をご紹介しました。

 そのお話をしてくださった小板橋孝雄さんは、学生の就職活動を支援するにあたって、いくつか大切にしていることがあると言います。今回の記事では、そのうち「学生自らが経験から学ぶ」ということと、「セレンディピティ(偶然の幸運を発見する能力)」についてご紹介いたします。
 大学のキャリア支援センターの現場で、学生の学びをどのように促しているのか。また、就職活動におけるセレンディピティとはどのようなことなのか。小板橋さんにお話をおうかがいしましたので、ぜひご参照ください。

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●今回お話を聞いたのは・・・
 東京都市大学
 キャリア支援センター 課長
 小板橋 孝雄 さん
 キャリアカウンセラー(CDA)

大学卒業後、大手旅行代理店勤務を経て、私立短期大学の就職支援センター・私立大学キャリア支援センター(現職)に勤務。講座企画運営、学生の就職先となる企業とのパイプづくり、キャリアカウンセリング・コーチング・NLPを取り入れた個別指導などに取り組んでいる。2001年6月キャリアカウンセラー資格取得。特定非営利活動法人(NPO)日本キャリア開発協会に籍をおき、高校生のキャリアカウンセリング、キャリア教育プログラムの研究、企画・運営などを行っている。また、キャリアカウンセリングのファシリテーター、スーパーバイザー、JCDA認定PFAとして協会に所属するカウンセラーのトレーニング支援や研究にも取り組んでいる。


すべては経験を振り返ることから始まる

——就職活動において「学生自らが経験から学ぶことが大切」と考えているとうかがいましたが、それはどのようなことなのでしょうか?

 就職活動に限ったことではなく経験から学ぶ」ということは人生においてもすごく大事なことですよね。就職活動では、学生は不安を抱きながら、初めて活動に向き合うわけです。最初はいろいろな点で未熟ですし、思い通りに進まない辛さ・苦しさに直面することもあるでしょう。そうした中で、この経験を前向きに捉え、そこから学び、自分のキャリアを肯定的に考え成長していことが望ましいと思います。
 キャリア支援センターでは成長過程の学生を講座・ワークショップ・個別指導などさまざまな機会を創出し、支援していますが、他者の指導よりも、学生本人が自ら良い方向に変わっていけたらと願っています
 そのために、個別相談などでまずは経験を振り返ってもらいます。経験の中にいる自分を見つめる新たな気づきや学びが生まれ、自己成長につながります

 ただ、一人でやるのは易しくありません。誰かと話し合いながら客観的に自分を見つめないと、経験の中に自分を発見したり自己肯定感をつかんだりするのは難しいと思います。それを可能にするために、私たちキャリア支援センタースタッフがお手伝いをしていると言えます。

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——具体的には、どのような取り組みをなさっているのでしょうか?

 個別相談の場面が多いのですが、たとえば、一人の学生が会社訪問をしたとしたら、それを報告に来てもらいます。そこでどんな体験をしたのか話を聞きます
 「あの会社、どうだった?」
 「いやあ、すごく格好よかったです」
 「ああ、格好よかったんだね。どんなところが格好よかった?」
 「人事担当者の仕事に取り組む姿勢がとても人に温かくて、現場の社員もみなさん活き活きとした表情で働いていたところです」
 「人事担当者の温かさや社員の人の活き活きとした表情?」
 「ええ。そうなんですよ。訪問するとまず会議室で若手社員の人が待っていまして・・・」

 
 こんな感じで活動の報告が進んでいきますが、最初は一言の感想だけだったのが、自身の経験を話していくうちに本人の自己概念を映すような、気持ちや思いの表れた言葉がたくさん出てきます。
 私はそれをホワイトボードに書き出します。学生と一緒にホワイトボードを見ながら、「この言葉ってどういうこと?」「どうしてこういう言葉を使ったの?」「この中で一番気になるのはどれ?」などと質問していきます。言葉の背景にはその言葉を生み出す本人の興味・価値観のようなものが隠されているからです。さらにその経験についてじっくり聴いていく。経験のなかにいる学生自身をホワイトボードに描いていく感じです。

——自己分析のようですね。

 はい。とても効果的な自己分析だと思います。エントリーシート作成にもこの手法は使えます。
 経験を振り返る過程では、次のような会話も生まれます。
 「その経験って、自分では『大したことがない』って言うけど、私から見たらすごいと思うよ」
 「そうかなあ。そうなんですかねぇ」

 第三者の視点を交えて経験の振り返りを何度も繰り返していると、学生が「そんな見方もあるのかもしれない」と気づく瞬間に出会います。自分自身をマイナスにしか捉えられなかった彼らに自己肯定感が少しずつ生まれます。それは自信につながり、行動のエネルギーへと変化していきます。未来に向けて一歩踏み出すエネルギーと換言してもいいと思います。何気ない経験の振り返りから始まり最後は行動するエネルギーが生まれる。現場で相談を受けているとこんなことがよく起こります。


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セレンディピティを身につけ
行動のエネルギーを生み出すお手伝い

——「一歩踏み出す」とは、行動に移すということでしょうか?

 そうです。就職活動の成功は、「行動とその継続」が大切なポイントになりますので、学生一人ひとりが行動するエネルギーをいかに生み出すかが重要です。
 先ほども言いましたが、就職活動中の学生には良いこと・悪いことも含め想定外のことがたくさん起こります。企業説明会の予約が取れない、第一志望群の説明会が重なる、エントリーシートが通らない、「どこにも就職できないのでは」という不安が募る・・などです。
 でも一方で、幸運なこともあります。たとえば、新しい仲間やOB・OGとの出会い、たまたま出会った企業の魅力発見、ESや面接の過程で自己分析をしながら新しい自分の発見・・などです。たとえ当初の希望通りに活動が進まなくても、偶然の出来事が幸運につながることもあのです。
 「セレンディピティで就活は上手くいくよ」と学生にはいつも伝えています。
※セレンディピティ:「思わぬものを偶然に発見する才能・能力(研究社 新英和中辞典)」「何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能(Wikipedia)」
 セレンディピティを身につけるためには、目の前で起こったことを肯定的に受け入れる意識と行動の継続が欠かせません。たとえ嫌なことが起こっても、「何か意味がある。これも自分の経験となって、未来の自分につながっていく」こんなふうに捉えることができたら「明日からまたがんばってみよう」と前を向くことができます。行動のエネルギーの誕生です。

——行動のエネルギーを生み出すために、キャリア支援をされる方の存在は大切ですね。

 学生にとって最高の指導者は自分自身の経験で、私たちの影響力は小さなものかもしれません。でも、CDA(キャリアカウンセラー)のような第三者的存在が、学生と少し違う視点から経験を一緒に見てあげると、本人の気づきや学びにつながりやすくなり効果的だと確信しています。「経験から学ぶ」ということも、CDAが実践する経験代謝という考え方と同じですから、支援者としては適任だと思います。
 学生が前を向いてがんばるようになれば、私もがんばろうと思うこともあります。いい報告があれば、素直にうれしい気持ちがあふれます。私自身の自己効力感も高まります。それがキャリア支援センターで働く者の最大の喜かもしれません。

>>東京都市大学
http://www.tcu.ac.jp/

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