乳幼児連れのお母さんが安心して過ごせる親子サロン開業
[2018/11/29]
小さい子を育てるお母さんたちは、どのような悩み・苦労があると思いますか?
実家や保育園など気軽に子どもを預ける先がなければ、どんな用事も子連れにならざるを得ません。病院に行く時、美容院に行く時、上の子の学校行事に行く時はどうするのでしょう? 子どもが2人、3人であれば、トイレに行くのもたいへんそうです。電車やバスでの移動中や外出先では、うるさくしないように周囲に気を遣うことでしょう。たまには一人になりたい時もあるでしょう。働いていないことに劣等感や罪悪感を抱く人もいるでしょう。そんな悩み・苦労を誰かに打ち明けられる機会はあるのでしょうか?
みなさんは、こうしたシーンを想像してどう思われますか?
これまで2回にわたってご紹介した永井由美さんは、乳幼児を持つお母さんたちのリアルな悩み・苦しみを知り、思うところがありました。
「こんなお母さんたちを誰が支援しているのだろう? 支援できていないのではないだろうか? どうにかならないものだろうか?」
ただ、その頃は永井さん自身が2人の乳幼児を育てている真っ最中。自分のことで手一杯でした。しかし数年後、子連れでも安心して過ごせる親子サロンのオープンに向けて動き出します。
社会のあり方まで考えさせられる永井さんのキャリアストーリー、ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社LINK 代表取締役
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
永井 由美 さん
5年経っても“育てにくさ”が変わっていない
子育て中のお母さんを対象とするキャリア関連セミナーの講師は、年に1回、計3回務めました。そこでは、子ども、特に乳幼児を育てるお母さんたちのリアルな悩み・苦しみを多く聞きました。そして、それを支援する環境が充足していないことも痛感しました。「どうにかならないものか」と思いつつも、私自身、乳幼児2人を育てるのに精一杯でした。
そうして数年後、第3子を授かり出産しました。第2子出産から5年空いています。ところが、改めて気づかされました。
「“育てにくさ”が2人目の時とまったく変わっていない!」
私が住む横須賀市では、5年経っても乳幼児を育てる環境が改善していないのです。おそらく、日本の多くの地域で同じような状況がうかがえるのではないでしょうか。「これはおかしい」と思い、何度となく夫に愚痴をこぼしました。
夫への愚痴が止まらない
「乳幼児連れのお母さんが安心して過ごせる場所がないのよ。以前はコーヒーチェーン店にキッズスペースがあったけれど、全部客席に変わってしまったわ」
「行政は、自然豊かな公園や屋外の遊び場を充実させているけれど、小さい子が屋外で遊ぶのは難しいわよ。『ウッドチップをまいてあるから安全』だなんて、ハイハイの子だったら口に入れちゃうじゃないの。それに、屋外は熱中症も心配。子どもは地面と距離が近いから、熱中症になりやすいのよ」
「小さい子には室内の遊び場が必要なのよ。安全で安心して遊ばせておける、室内の遊び場。この近所にまったくないじゃない。都会にはあるのかもしれないけれど、みんなが都会に住んでいるわけじゃないのよ」
「どこに行っても、お母さんたちはみんな周りに気を遣っているわ。それなのに、周りの人から『うるさい』とか『チッ』とか言われることもあるのよ」
「だいたい、世間の人は『子育て中のお母さんはがまんしろ、ぜいたくするな』と思っているわけ? 子どもを預けて映画を観に行ったりしちゃいけないの? 子育てに行き詰まっていると、ちょっとしたゆとりが明日への活力になるのに」
「お母さんたちだって、たまにはくつろぐ時間があってもいいでしょ。お店でホットコーヒー頼んでも、子どもの世話をしているうちにアイスコーヒーになってしまうのよ。冷めてしまうから」
「ねえ、この状況って、何か変じゃない?」
自分で「場」を作って提供する
5年経っても改善されていない子育ての環境に対して、私の愚痴は止まりませんでした。そうしたら夫はこう言ったのです。
「そこまで言うなら、自分でやるしかないよ」
「えっ?」
「やるなら応援するよ」
「やるって何を?」
「お母さんが子連れでも安心して行ける場所を自分で作るんだよ」
「なるほど、そうか、そうだよね!」
みなさんには突拍子もない会話に聞こえるかもしれませんが、私は「なるほど」と思ったのです。確かに、「場」さえ提供できれば、お母さんたちの悩み・苦しみを軽減させられるはずです。
お母さんが安心して子どもを遊ばせておける安全な場。
周りに気を遣わず、ゆっくりと飲食できる場。
子どもをみてもらっている間に、自分の時間を過ごせる場。
育児に行き詰まった時に誰かに相談できる場。
用事がある時に気軽に預けられる場。
もし私の試みが成功すれば、ほかの地域のお母さんたちにも参考になるかもしれない。そういう思いも生まれました。
銀行に融資を依頼するも・・
しかし、場を作るための基盤を、私は何も持っていません。たとえ空き家を活用すると仮定しても、改築工事や遊具調達など最低限の資金が必要です。ざっと試算しただけでも、一千万円をゆうに超えそうです。
そこでまず、会社を設立し、銀行に融資を申し込みました。しかし、すんなりとは貸してくれません。それでも諦めずに何度も交渉しました。「子どもに投資しないで、このまちに未来があると思いますか?」と熱く語ることもありました。私の熱弁に、銀行の担当者も心情的には理解してくれていたようです。でも、過去に同じような事業形態がないなど、経営計画の数字的根拠を示すことが難しく、なかなか首を縦に振ってくれません。
特に「削ってもらいたい」と言われたのが、遊具購入を含めた遊び場の工事費、約100万です。「遊び場に100万円も使うのはぜいたく」だと指摘されたのです。でも私は、充実した遊び場が重要だと考えていました。なぜなら、目指している場に大事なのは、子どもが安全かつ夢中に遊べることだからです。
クラウドファンディングで望外の反響
そこで、クラウドファンディングで寄付を集めることにしました。目標金額は100万円。そうしたらすごい反響でした。なんとたった13日で目標を達成。多くの人が子育て支援に賛同してくださったのです。感激しました。そして、まだ募集期間が残っていたので目標金額を追加してお願いしたところ、最終的に186万円を寄付していただくことができました。本当にありがたいことです。
このクラウドファンディングの動きも銀行の判断材料になったようです。最終的に3年間の収支計画書を提出し、当初の申し込みから約2年を要して、ようやく融資を受けられました。
もちろん、場作りの準備は資金面だけではありません。一緒に働いてくれるメンバーを集めたり、場所を確保したり、市・消防・保健所などに申請をしたり、遊び場のプロデュースをお願いしたり、やるべきことはたくさんありました。それでもようやく念願が叶い、11月27日にオープンする運びとなりました。
セミパブリックな親子サロン「結−Yui−」
オープンした「場」の名称は、mam&kids salon「結−Yui−」と言います。「人と人を結ぶ」「お隣が神社なので『縁結び』から」「音が柔らかくて女性らしい」という理由から名付けました。
コンセプトは、セミパブリックな親子サロンです。
公共の施設だと、気軽さを感じにくく、初めて利用する人には抵抗感があります。原則的に施設内での飲食は不可で、駐車場の問題も生じます。一方、ママ友など個人の家に行く場合は、招く側も招かれる側も何かと気を遣い、人間関係の窮屈さを感じることが少なくありません。ですから私たちは、ビジネスというフェアな関係でつながりながらも、ちょっとした悩みや相談も話せるような「セミパブリック」をコンセプトにしたのです。これは、お母さんたちの声を参考に、メンバーみんなで考えました。ちなみに、飲食の持ち込みは自由です。
施設は2フロアあり、1階には約30人が過ごせるカフェのようなサロンスペースと、約12畳のキッズスペースがあります。サロンスペースではくつろいだり仕事・勉強をしたり、思い思いの過ごし方ができます。キッズスペースは、主に未就学児を対象にしています。保育士資格や看護師資格を持ったお母さんや子育て経験のあるお母さんが常駐し、その日来所したお子さんの年齢に合わせて、トランポリンや滑り台などボーネルンドの楽しい遊具を用意します。
2階は、約24畳の会議室と、最大5人までの一時預かり託児室。会議室はママ会や教室、打ち合わせなど、空いていれば自由にご利用いただけます。託児室は、事前登録していただければ、保育資格を持つスタッフが常駐してお子さんをお預かりします。
くわしくはhttps://www.salon-yui.com/ をご覧ください。
永井由美さんのライフラインチャート(22〜39歳)
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★永井由美さんの「お母さんが置かれている状況を何とかしたい」という思いからオープンに至った「結−Yui−」、みなさんはどう思われますか? 実は、こうして紹介すると素敵な面だけに目が行きがちかもしれませんが、実はスタッフの方にも苦しい状況がありました。そのお話は来月の当コーナーでご紹介いたします。
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