キャリアコンサルタントの「専門性」と「仕事の実態」
[2017/05/30]
国家資格キャリアコンサルタントが誕生して1年強。厚生労働省は、その必要性・重要性を鑑みて社会のインフラにしようと、2024年までに10万人のキャリアコンサルタントを養成する計画を打ち出しています。資格試験もすでに3回実施されました。
でも、広く一般に認知されているかといえば、まだまだといったところでしょう。「キャリアに関するコンサルティング」であることは想像できるでしょうが、たとえば次のような具体的内容になると、答えられる人は少ないのではないでしょうか。
「キャリアコンサルタントとは、どこで誰に何をする仕事なのか?」
「実際の働き方や待遇はどうなっているのか?」
「似たような名称の資格と比べて、何が違うのか?」
「資格取得や学習によって、何を得られるのか?」
「試験や学習の内容はどのようなものなのか?」
これらの回答をわかりやすくまとめているのが、この春に出版された『働き方改革の担い手「キャリアコンサルタント」〜自分らしい生き方の支援者〜』という書籍です。本書を読めば、キャリアコンサルタントの仕事と資格のことがオールインワンで把握できるでしょう。なかでも、現役キャリアコンサルタントへのインタビューは、それぞれの人がどのような仕事で資格を活かしているのかを、リアルに教えてくれます。
そこで、本書を執筆した田中稔哉さんに、出版にあたっての思いをインタビューしました。自分らしいキャリアや生き方について気になる人、あるいはすでに資格を持っている人は、ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
取締役
キャリアコンサルタント、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)、
1級キャリアコンサルティング技能士、精神保健福祉士
田中 稔哉 さん
一般の人に「キャリアコンサルタント」を知ってほしい
◆本書を書こうと思ったきっかけはなんですか?
私は仕事柄、毎日キャリアコンサルタントにかかわっていますが、果たして一般の人にどれほど浸透しているのか。想像以上に知られていないことがわかりました。キャリアコンサルタントの認知度についてのアンケート調査で、「知らない」と回答した人が相当数存在したのです。「知っている」という人でも、「聞いたことがある」という程度の認知度しかありません。
では、キャリアコンサルタントについて説明している本があるかというと、専門書や試験対策本はあるものの、一般の人向けに仕事や資格のことを整理してまとめられている本は見当たりませんでした。そこで、より多くの人に「キャリアコンサルタントとは何か」を知ってもらいたいと思いました。
加えて、「働き方改革」が言われる中、その実現には働く一人ひとりが自分のこうありたいという生き方・働き方を主体的に考える必要があります。それを支援する専門家がキャリアコンサルタントであることを全編を通して伝えたいと思い、出版する運びとなりました。
◆主な読者対象はどのような層ですか?
「キャリア」や「自分らしい生き方」について気になる人や、人を支援する仕事に興味がある人、キャリアコンサルタントの資格に興味がある人などが主な対象となります。そのため、専門用語はなるべく控え、わかりやすい内容になるように心掛けました。
ただ、読者の声を聞くと、資格を持っている人にも好評のようです。それから考えると、すでにキャリアコンサルタントの知識がある人にも役立てていただける内容に仕上がったのではないかと思います。
◆本の構成はどのようになっていますか?
序章を含めれば、(1)「キャリアコンサルタント」って何?、(2)キャリアコンサルタントという仕事、(3)さまざまな分野で活躍するキャリアコンサルタント、(4)国家資格にチャレンジする、(5)キャリアコンサルタントとして活躍するために求められる知識・スキル、という章立てで構成しています。
内容を大きく分けると、「キャリアコンサルタントの専門性」「キャリアコンサルタントの仕事の実態」「国家資格および試験の概要」に整理することができます。
キャリアコンサルタントの専門性とは
◆順を追っておうかがいいたします。まず、「専門性」とはどういう意味でしょうか?
たとえば、弁護士には訴訟行為や法律事務を行うことに専門性がありますし、医師には診察・治療を行って病気やけがを治すという専門性があります。では、キャリアコンサルタントは何に専門性があるのかということです。以前から、それをより多くの人に知ってもらいたいという思いを強く持っていました。
よく「個人と職業をマッチングする専門家」だと間違われがちですが、けっして職業マッチングをすることだけに専門性があるわけではありません。職業マッチングは、キャリアコンサルタントの業務の一種ではありますが、それにとどまるものではありません。
◆では、キャリアコンサルタントは何の専門家なのでしょう?
くわしくは本書に書きましたが、簡単に言うと、「相談をしに来た人の経験に現れている自己概念を明らかにして、社会の中でありたい自分に近づけていくための意思決定ができるように支援する専門家」だと考えています。もう少し平たく言えば、「相談者が主体的なキャリアを形成するため、自分らしい意思決定ができるように支援する専門家」です。
ただ、専門性の解釈については人によって意見が分かれるところですので、あくまで私の解釈だと捉えていただければ幸いです。
◆「就職」のことだけを扱う専門家ではないのですね?
そうですね。「キャリア」という言葉は、広義では「人生」そのものを意味していますから。それについては例を挙げてご説明しましょう。
たとえば、就職活動をしているにもかかわらず、なかなか内定を得られず困っている大学生がいるとします。その大学生に対して、就職先を紹介したり応募書類の書き方や面接の仕方の指導をしたりする、「就職をさせる」という支援のアプローチがあります。この場合、支援の最終目的を「就職する」ということに置いています。もちろん、このこと自体は非常に大事な支援です。ただ、就職さえすれば主体的なキャリアを形成できるかというと、そうではありません。
私たちの考えるキャリアコンサルタントの専門性は、「自分の可能性を信じて、諦めずに職業を選ぶという活動に立ち向かい続けられるような自分をつくる」ことを支援するアプローチだと考えています。なぜなら、支援の最終目的を「自分らしさやありたい自分に近づけていくこと」に置いているからです。そのためには、大学生本人が「なぜ働くのか?」「自分はどんな仕事をしたいのか?」など自分と向き合って、深く自己を理解する必要があります。その自己理解の促しも含めて、キャリアコンサルタントの専門性だと考えます。
◆なるほど、そういった専門性を持っているから「働き方改革」の担い手となるということなのですね。それでは、なぜ今、キャリアコンサルタントが必要だと言われるのでしょうか?
労働力の減少や産業構造の変化、終身雇用の崩壊、生き方のパーソナル化・多様化など、社会の動きが変わってきたからです。
とくに、いい意味でも悪い意味でも「解がなくなった」ことが大きく影響していると思います。従来は、「社会や企業が提示する価値観に合わせて働けば生活が保証される」という風潮でしたが、現在は「生き方・働き方は自分で決めなさい」と個々の選択責任が問われる時代です。その意思決定に際して、キャリアコンサルタントの存在が期待されているのだと考えます。
キャリアコンサルタントの仕事の実態
◆キャリアコンサルタントの仕事の実態についてもくわしく書かれていますね。
一般の方向けに「キャリアコンサルタントとは何か」に焦点を当てた本ですので、キャリアコンサルタントが「どこで、誰に、何をしているか」という仕事の実態については、多くのページを割きました。
現在、キャリアコンサルタントが活躍している主な領域としては5つあります。具体的には、企業内、民間人材ビジネス、公的な就労支援機関、学校、独立開業という5つです。
さらに5領域の中にもさまざまな立場があります。たとえば、企業内であればキャリア相談室、人事部門、管理職、労働組合など、民間人材ビジネスであれば人材紹介、再就職支援、人材派遣、業務請負など、公的な就労支援機関であれば国の機関であるハローワークや、ジョブカフェなど地方自治体の就労支援事業などがあります。
これらが「どこで」ということになります。
◆「誰に、何をしているか」についても書かれているんですね?
はい、領域ごと・立場ごとにできるだけくわしく説明しました。
キャリアコンサルティングの対象は、求職者、就業中の人、職業訓練を希望する人、生徒・学生などに分かれます。また、その仕事内容を大きく分けると、(1)業務の企画・管理、(2)個別相談、(3)セミナー・グループワーク・授業などのグループ支援になります。
さらに、働き方も、正規雇用なのか、有期雇用なのか、業務委託なのかが異なります。待遇面も含めて、踏み込んで触れました。
「何をしているか」という点では、キャリアコンサルティングの面談で話される会話のやりとり(逐語記録)の例も掲載しています。これを読んでいただければ、個別相談の場でキャリアコンサルタントがどのように話し、相談者がどのように変わっていくかがわかるのではないかと思います。
◆本には20人の現役キャリアコンサルタントのインタビューも掲載されています。
仕事の実態や資格の活用状況をよりリアルに理解していただけるようにと、キャリアコンサルタントの生の声を掲載しました。
人選にあたっては、企業内、民間人材ビジネス、公的な就労支援機関、学校、独立開業という各領域において2〜5人、さらに養成講座のインストラクターなど3人のプロフェッショナルにもインタビューしています。
具体的には、それぞれの方の仕事内容、資格取得のきっかけ、支援活動のやりがい、資格の活用、資格取得学習で得たことなどについて語っていただきました。
学習や資格取得が人生に大きなインパクトを与える
◆インタビューをされての感想を聞かせてください。
最も強く感じたのは、キャリアコンサルタント(旧制度のCDA)の学習や資格取得をしたことが、その人の人生にすごく大きなインパクトを与えたんだなあということです。資格取得によって、いい意味で大きな変化が起きた人が多かったです。
たとえば、「資格取得によって自分が何をしたいかが明確になり、その仕事を目指した」「資格を取得して転職した」「資格に関連して出会った人からの話で、新しいチャンスを得られた」「失意のどん底にあった状態から救われた」などです。
このように、人生に変化を起こさせる理由は、キャリアコンサルタント(当時はキャリアカウンセラー)を養成する講座で、受講者自身が自己を理解するワークが多いからだと思います。自己を理解するためには、“見たくない自分”も含めて自分のことを深く考えることが求められます。そうしたワークを通じて、自分らしさやありたい自分に気づき、過去の経験に対する意味づけや仕事に対する意味づけなどが変化していったのだと思います。
◆ほかに何か感じたことはありますか?
20人のキャリアコンサルタントに仕事のやりがいを聞くと、ほとんどの人が「相談者の中にすごくネガティブな思いを抱いている人がいたのですが、ある時、明るい表情でこんな前向きな発言をしてくれた」など、相談者の意欲や成長を感じられる瞬間に立ち会えることをやりがいとして話してくれました。けっして「高い就職率を達成した」「売上を大きく伸ばした」というような成果に喜びを見い出すのではなく、相談者一人ひとりとかかわる場面に喜びを感じているのです。
その意味で、人を支援する仕事の価値を改めて確認できました。
受験者に役立つ、資格制度・試験対策・合格体験記
◆試験の内容や学習法についても書かれていますね。
はい、資格制度や試験の概要はもちろん、合格に向けた勉強法も一通り解説しています。試験は、学科試験と実技試験に分かれ、実技試験はさらに論述試験と面接試験に分かれています。その中で受験者から最も難しいと言われるのは実技の面接試験ですが、その対策についてもポイントを掲載しています。
また、国家資格になってから合格した人の合格体験記も載せています。その人たちが合格するためにどのように勉強してきたかについて、具体的に語ってくれていますので、これから受験する人にはとても参考になると思います。
◆最後に、本書全体を通して伝えたかったことを教えてください。
本を発行したきっかけでもお話ししましたが、キャリアコンサルタントがどのような専門性を持って、どのように相談者にかかわるのか。キャリアコンサルタントが実際にどんな仕事をどのようにしているのか。何のために何を学ぶ資格なのか。どのような資格制度なのか。そうしたことを、より多くの人に伝えられればうれしい限りです。ご一読いただければ幸いです。
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『働き方改革の担い手「キャリアコンサルタント」〜自分らしい生き方の支援者〜』
著者:田中稔哉、発行:日本マンパワー、1,800円(税抜)、280ページ
序章 「キャリアコンサルタント」って何?
第1章 キャリアコンサルタントという仕事
第2章 さまざまな分野で活躍するキャリアコンサルタント
第3章 国家資格にチャレンジする
第4章 キャリアコンサルタントとして活躍するために求められる知識・スキル
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