ちょっと一息

経験から考える「望ましい働き方」 vol.2

放っておくだけでは改善しない、だから自分が動く

[2018/03/29]

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 「自分にとって、どのような働き方が望ましいのだろう?」
 そうした問いかけへの参考にしていただければとスタートした本シリーズ。その第1回は、外食産業に40年近く勤めてきた原川始さんの入社1〜3年間にスポットを当てました。今回はその第2弾です。
 おいしいものを食べるのが大好きだった原川さんは、採用担当者の熱い情熱に惹かれて外食産業会社に入社するも、わずか3日で「とんでもない会社に入ってしまった」と痛感。しかし、馬車馬のように働かざるを得ない忙しさに心が折れそうになりながら、「仕事ができないまま辞めるのは悔しい」と踏ん張り、お客様からの感謝の言葉や仲間とのコミュニケーションを救いに働いてきました。その過程で実力を身につけ、店長が視野に入ってきた頃、転機が訪れたと言います。
 果たしてどのような転機だったのでしょうか? また、どのような働き方をしてきたのでしょうか? 原川さんの考え方には見習うべきことが多々あります。ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 外食産業会社勤務
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 原川 始 さん


何をするのかわからない新業態の1号店へ

 社会人になって以降、私に最初の転機が訪れたのは、入社4年くらい経った頃です。会社初の業態となるカジュアルレストランを出店することになり、その1号店に、私が異動することになったのです。私が自ら希望したわけではなく、当時働いていた店舗の店長から、「原川君、行ってくれ」と命令されました。
 しかし、カジュアルレストランがどのような業態なのか、どのようなメニューを出し、どのようなサービスをし、どのような運営をするのか、事前に何も知らされていませんでした。何もわからないところへ行くのですから、私は不安でいっぱいです。それでもとにかく行きました。
 実際に行ってみると、メニューには写真がなく、文字だけしか書いてありません。これはそれまでの店舗になかった試みで、初めての経験です。ファミリーレストランというよりも高級レストランのように、スタッフがお客様に口頭で説明するのです。また、たとえばオレンジジュースであれば、お客様にオレンジを2つ選んでもらって絞る。氷の形もクラッシュかキューブかを選んでもらう。ワインやカクテルも出す。そんな、女性が大喜びそうなオシャレな店でした。オープン前から評判になっていて、3時間待ちするほどでした。
 ところが私はと言うと、ワインの栓の抜き方も知らない。カクテル用のシェーカーも振れない。料理も作ったことのないものばかりでした。
 それでも、新しいことに挑戦することには喜びを感じました。元々好奇心が強い性格だからでしょう。それに、今と違ってとても自由がありました。新しいメニューを追加したり、オリジナルイベントを企画したりしても、割とすんなり了承されたのです。「バンドを呼んで演奏してもらおう」「ミス・コンテストをやろう」「ビュッフェスタイルにしてみよう」など、時期に応じてさまざまな企画を実施しました。その自由さが、私に大きなやりがいを感じさせてくれました。そのカジュアルレストランでは、店長やマネジャーにも就かせていただき、10年間くらい非常に楽しい時期を過ごしました。


辛い日々の一方で「こんな幸せなことはない」

 しかし、異動・転勤が多い会社ですから、ずっとそこに留まることにはなりません。その後は、役割や勤務地がさまざま変わっていきました。
 まず関西でマネジャーをしていたカジュアルレストランから、東京でイタリアンに近い新業態のマネジャーとなり、その展開をするための研修指導で何百人もの社員・クルーの受け入れを任されました。次に、そのブランドを全国に100店増店するのを目標に、各地を回ってのプロモーターをしました。それが済むと今度は、山口・四国・九州を対象としたオープン1年以内の新店事業部長。さらに、福島から千葉までの既存店舗の事業部長として、業績指導やクレーム対応などをしていました。しかし、人事異動で再度店長となり、熱海にある規模が大きくて極めて忙しい店舗運営や東京にある新メニューの実験店等々をやらせていただきました。はっきり言って事業部長から店長への降格人事でした。
 自分としては「平穏無事に暮らしていきたい」と思っていたのですが、気が付いたら望んでもいないところに異動させられているパターンがほとんどです。
 辛い時期ももちろんありました。
 オープン前トレーナーや新店指導では、地方巡業のように各地を転々。毎日、次に行く店を決め、自分でホテルを予約しながらの生活は、本当に辛かったです。現地のスタッフと喧嘩することもありました。また、店長に戻り運営を任された熱海の店舗は全国で1・2位を争うような売上の大型店。朝6時に開店すると、1時間ごとに100人も来客するような大忙しの店でした。そこに40歳を過ぎてから単身赴任で1年間。忙しすぎて痩せてしまい、倒れるのではないかと思うほどでした。
 それでも、オープントレーナーでは、みんなの気持ちが一つになって「オープンできた!やったね!」という日を迎えると「こんな幸せなことはない」と思えましたし、熱海でも「今までの店長ができなかったことをやってみよう」と、工夫やイベントなどを試行錯誤して、全国店舗年間売上1位も達成できました。密かな自慢は、一度も上司にクレーム等でお世話にならなかったことです。


「快適にしたい」という思いから

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 長時間勤務と多忙さで辛い毎日の中で、どうして前向きな思いが生まれたのか、自分でもよくわかりません。ただ、どこの店舗・どこの部門に行っても、「自分にとって快適にしたい」という思いは持ち続けていました。自分の居心地が良くないと、楽しくありませんから。そして、快適にするためにはどうすればいいかを一生懸命考えました。そうすると、引っかかることや問題点が次第に見えてくるのです。「これがなくなると快適になるだろうなあ」と。
 逆に、不快なまま、何か引っかかるまま、嫌なままでいるのは辛いと思うのです。ただ、放っておいてはいつになっても改善しない。だから、自分が動くしかない。そんな感じで動いていたのではないでしょうか。
 せっかく生きているのですから、やってみた方が楽しいに違いありません。何もしなければ自分が傷つくことはないかもしれませんが、私は「何かをする」ことを選んできました。今も、迷ったらやってみようという姿勢で走っています。みなさんも、おそらくその方が楽しいのではないでしょうか。

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★店長やマネジャーなどの役職に就いた後も、厳しい職場環境の中で改善に挑む原川始さん。その源にはこんな思いがあったのですね。そうして50歳が近づいてきた原川さんに、自宅待機の事態が生じます。一方で、定年後の生活を心配するご家族。来月はシニア世代必見の内容です。
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