EQ活用力を高める、簡単で効果的なトレーニング
[2014/03/04]
行動の裏には感情が隠れています。
自分の行動を思い起こしてみてください。たとえば最近、誰かにきつい口調で言い放った覚えはありませんか? その時、あなたに何らかの感情が働いたから、きつい言い方になってしまったのではありませんか? あるいは最近、つい黙ってしまったことはありませんか? その時も、何かの感情が働いたから黙ってしまったのでしょう。
行動の裏に感情が隠れているのは、あなただけではありません。今、あなたのすぐそばにいる人も、同じように感情が働き、それが行動に影響を与えています。
ですから、感情と行動のメカニズムを知り、感情を上手に使うことができれば、さまざまな人間関係に好影響をもたらすことができるのです。それが「EQをうまく使う」ということです。
そこで、EQを上手に使える人になるために、ちょっとしたトレーニングをしてみましょう。前回に引き続き、EQトレーナーとして研修講師や感情ダイアログカフェのファシリテーターなどで活躍する岸川祐子さんに、その方法をおうかがいしました。ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
岸川 祐子 さん
学習塾にて遠隔教育事業開発に従事した後、eラーニングのコンテンツベンダーにて企業研修用eラーニング教材の開発・エディター業務を経験。2003年より総合電機メーカーにて、論理思考力トレーニングの社内オリジナルプログラムの開発、およびインストラクションを担当。2007年EQグローバルアライアンス公認プロファイラー、およびEQトレーナー資格を取得。2009年フリーの研修講師として独立し、現在に至る。専門分野は、ビジネスを円滑に進めるためのメッセージ発信トレーニング、論理思考力の基礎と実践トレーニング、論理思考力をもとにした文書作成力・プレゼンテーショントレーニング、人間関係力向上のためのEQトレーニングなど
EQはビジネス上でも大切なスキル
前回もお話ししたように、人の行動の裏側には何らかの感情があります。
たとえば、自分をはっきりと主張するような行動。そうした行動の裏側には、「自分の気持ちや思いをわかってほしい」という感情が隠されているのかもしれません。一方、自己開示をしたがらない行動。そうした行動の裏側には、過去に自己開示をしたことによって裏切られたり失敗したなどの経験があり、「同じ思いをしたくない」という感情が働いていることが多いのかもしれません。
こうした行動と感情の関係はすべての人に当てはまります。また、プライベートだけでなく、仕事をしている時にも行動は感情に左右されています。ですから、感情を上手に使う能力、いわゆるEQは、仕事においても非常に大切なスキルであると言えます。
感情表現に慣れていないと褒め言葉が出てこない
ところが、「仕事に感情を持ち込むな」とか「感情で議論してはいけない」などと職場で指導されることがあります。私自身、上司からそのように教わった経験があります。しかし、それを忠実に守ると、感情にふたをする習慣ができてしまいます。
感情にふたをするとどうなるでしょうか?
まず、自分のストレスに気づきにくくなります。状況や程度によっては、メンタルヘルス不調に陥ってしまう可能性もあります。
また、感情を言葉で表現するのが不慣れになります。日常生活の中で他者を認めたり、他者を褒めたりする発言が少なくなってくるのです。人間関係を円滑にするためには、人を認めたり褒めたりすることが大切で、そうした発言を積極的に行おうと心掛けている人もいるのではないでしょうか。でも、感情にふたをする習慣がついてしまった人は、いざ他者を「認めよう」「褒めよう」と思っても、慣れていないので言葉が出てこないという傾向があります。
感情日報をつけてEQ活用トレーニング
そうした人にお勧めのトレーニング法をご紹介しましょう。それは、「感情日報」をつけることです。感情日報とは、毎日の自分の感情を書き留めておくもので、どのような書式でも構いません。大切なことは、自分の感情を思い起こし、言葉にして書くという行為です。業務日報の感情版とでも言えるでしょうか。
たとえば、奥様に朝食を作ってもらって、ちょっとマズイと思ったのだけれど、それを奥様に告げなかったとします。告げなかった理由は、「せっかく作ってくれたのに、そんなことを言うと申し訳ないから」かもしれませんし、「言うと喧嘩になるから」かもしれません。こうした時に、「自分は何を感じたのか」「なぜ自分は黙っていたのか」などをきちんと考えて書き留めておくのが感情日報です。
このように感情日報をつけていると、感情の棚卸しができ、自分の感情を微細に把握できるようになります。「自分の感情なんてわかっているよ」という人がいるかもしれませんが、そういう人でも意外と、自分の感情がどういう状態なのかをあいまいに把握しているケースが多いのです。
自分の感情を記せば他者にも伝えられるようになる
感情日報をつけて行動が変わった人は何人もいらっしゃいます。
たとえば、単身赴任をしている50歳代の男性がいました。その方は感情日報をつけ始めた当初、独りで食事をすることのわびしさ、空しさを書いていました。そうしているうちに、「家族への感謝の裏返しだ」ということに気づいたと言います。
もっとも、その方はそれまで、奥様にもお子様にも「ありがとう」とあまり言っていませんでした。そんなことをいちいち表現するなんて恥ずかしいと感じていたからです。でも、感情日報を書いて感情の棚卸しをしたことによって、自分の思いがはっきりとわかり「心の底からありがとうと言えるようになった」とのことです。
自分の感情あるいは行動と感情の関係に気づき、今まであいまいだった感情を言葉で記すことによって、他者に伝えることができるようになった例だと言えます。
こうした変化はもちろん、EQを上手に使うことにつながります。
ちなみに、表面的なテクニックで他者を褒めることは悪いことではありませんが、テクニックだけに頼ると長続きしませんし、どこか嘘っぽく感じるのではないかと思います。EQトレーニングは、テクニックを身につけるのを目的とするわけではありません。自分の感情と行動を知り、相手の感情と行動を知ることで、人間関係を円滑にして人生をハッピーにすることです。
みなさんの職場でも、感情をめぐる難しい問題があるのではないでしょうか。EQを上手に使えば、共感し合う風土形成につながります。ぜひご参考にしてください。