ちょっと一息

ビジネス心理を実務に応用する(1)

個人の「内発的動機」が組織を強くする

[2015/09/30]

ビジネス心

 「ビジネス心理」という言葉を耳にしたことはありますか?
 「ビジネス」も「心理」もよく使われる言葉ですから、なんとなく聞いたことがあるような気がしますね。
 日本ビジネス心理学会によると、「ビジネス心理とは、いかに人の能力と組織の活力を向上させるかというマネジメントの課題と、いかに顧客を創造し満足度を向上させていくかというマーケティングの課題に応える総合的な『心の科学』」と定義づけられています。
 確かに、ビジネスとは人が行うものですから、心理と大きく結びついていることでしょう。でも、それを実際に活用できているかというと・・なかなか難しい面があるのではないでしょうか。

 そこで、日本ビジネス心理学会の副会長であり、デジタルハリウッド大学の教授である匠英一先生にお話をおうかがいしました。非常に奥が深く、難解な面もあるのですが、わかりやすい導入部だけでもご紹介できばと思います。ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 匠 英一(タクミ エイイチ) さん

デジタルハリウッド大学 教授
日本ビジネス心理学会 副会長
1990年東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。同年に東京大学の研究者らと(株)認知科学研究所を創設。PC教育利用の企画・市場開発を中心とするコンサルティングに従事する。また1995年に通信機器販売の(株)ヒューコムに就職し、事業企画や営業の部長職に12年間従事。退社後、大学教員と兼任でコンサルティング業を行うほか、これまでに計15件の業界団体・コンソーシアムを創設する。2010年より日本ビジネス心理学会によるビジネス心理の資格認定制度を創設。監修・執筆した公式テキストは、韓国・中国の大学や企業よりオファーがあり翻訳版と資格を輸出。著書は「認知科学:最強の仕事力」(高橋書店)、「顧客見える化」(同友館)、「心理マーケティング」(JMAM)など約40冊。また、心理学者として、NHK「Rの法則」や日本テレビ「ナカイの窓」などにも出演している。


ビジネス心理-2

ビジネスに実用できる総合的な「心の科学」

 ビジネス心理とは、ビジネスに実用できる総合的な「心の科学」のことです。
 科学的根拠に基いた心理学をビジネスに活用する総合的な科学は、これまで見当たりませんでした。ですから私たちは、2010年に日本ビジネス心理学会を創設し、ビジネスパーソンが実用できるような心理学の応用に取り組んできました。
 この背景には心理学全体の流れが影響しています。従来の心理学には病を治すという課題がベースにありました。それが2000年頃から、人のポジティブな面に焦点を当てて成長を促すようなポジティブ心理学の流れが生まれてきたのです。マイナス面の解消という従来の考え方に、プラス面の創出という新しい考え方が加わったと言えるでしょう。

 他方、ビジネスにおいては、常にプラスの成長が求められます。また、私のようにコンサルティングを行っている立場の者は、メンタル面のケアではなく仕事に付加価値を提供する必要があります。そこで、心の科学をビジネスに活用するための総合的な科学として学んでもらおうと、2013年にビジネス心理検定をスタートさせたのです。
 ただ、ひと口にビジネスといっても、非常に広範囲にわたります。ですから、大きく「マネジメント」「マーケティング」の2分野に分類しました。マネジメントは従業員・役員の心理を対象とするもの、マーケティングは顧客の心理を対象とするものです。さらに、マネジメント心理は、経営心理人事心理に分類することができ、マーケティング心理は、営業心理広告心理に分類することができます。そして、それに対応する公式テキストを2年がかりで大手出版社から出したわけです。


ビジネス心理-3

部下が目標達成へのモチベーションを高めるには

 考え方の具体的な例を挙げましょう。
 マネジメント分野には、目標管理の仕組みがありますが、部下・メンバーは、どのように目標を達成するための動機づけ・モチベーションを高めればいいのでしょうか。
 90年代からとくにモチベーションを高めるための代表的な仕組みが成果主義制度でした。社員個々の成果に合わせて給料を増減するという、欧米のやり方をそのまま転用した仕組みです。しかし、欧米人と日本人とでは、損得感情」の心理基準(※メンタルモデル)が違います。認識の枠組みが違うのです。

 たとえば、ある社員が成果を上げて、給料が上がったとします。その人にとって、そのこと自体は喜ばしいことだと思います。短期的には、モチベーションを高める機能を発揮するかもしれません。
 でも、その人の心の中では、お金という指標が大きくなっていきます。ところが、お金という指標が大きくなるに伴って、内発的動機がだんだん失われていくのです。内発的動機とは、自分のしている仕事自体への関心や満足感のようなものです。たとえば、「その作業が好きだから」「社会的意義があるから」というような仕事への意義づけのことです。
 内発的動機が失われていくと、どうなるでしょう? お金はたくさんもらえるけれど、何だかやりがいがない」「幸せな感じがしない」などの精神状態になりがちなのです。シニアの年代によく見受けられる現象ですが、会社総体として長期的に見た場合、けっして望ましい状況ではないはずです。

 このように、成果主義が日本に合わないのは、東洋人の幸せ感情が、外部との人間関係に大きく影響しているという特徴があるからです。欧米人の場合は「自分は自分、他者は他者」との割り切りがはっきりしていて、自分の幸福は他者と直接関係がないという「個人主義」の傾向があります。
 しかし東洋人の場合は、たとえ自分の給料が上がっても、自分だけ給料が上がって、ほかの人に申し訳ない」という気持ちが出やすいのです。他者の心にも、妬み・嫉の気持ちが入ることも少なくありません。


ビジネス心理-4

原因を探しても解決するとは限らない

 もうひとつ、例を挙げましょう。
 アメリカの精神科医のミルトン・エリクソンは、心理的に病んでいる人に原因を問うことなく、行動を変えることで解決を試みました。どうするかというと、当人の行動そのものをこれまでのパターンと異なるパターンでやらせるようにするものです。
 たとえば、バスで出勤している人に「後ろ向きに歩いてバスに乗るように」などと言います。そんなことをすれば周囲の人から笑われますから、本人は恥ずかしくて仕方がありません。それでもとにかく数週間続けてみると、本人も自分のこっけいさに笑ってしまうような行動によって、自分に対して見方が変わっていくといったものです。

 こうした方法は、エリクソン・メソッドと呼ばれるものの例で、原因探しよりも解決自体にフォーカスしています。何かを変えることによって、別の次元で新しい可能性をつくる、解決志向法」(SFA)と呼ばれる手法です。
 私たちは、何か問題が生じた時、原因を探して解決しようとしがちです。もちろん、それは間違いではありませんが、人間は機械ではありませので、原因がわかっても解決できるとは限りません。

 こうした新しい実務に役立つ心理学は、ビジネス界でも世界的なブームとして注目され、ビジネスのどの分野にも応用することは可能だということが実証され、ノウハウとして蓄積されてきています。そして、それこそが、私たちの提唱するビジネス心理」なのです。
 ビジネス心理を学ぶことによって、ビジネスパーソン個人の成長に限らず、個人を含む会社組織全体の改善に効果を発揮します。長期的に強い会社を作るノウハウが、ビジネス心理に詰まっていと言えます。


>>「ビジネス心理検定」について詳しく知りたい方はコチラ
http://www.bpa-j.org/

  • 講座コンシェルジュ

    おすすめの講座・資格をご紹介

  • 講座を選ぶ

    キャリア形成にお役立てください

  • キャリアを考える

    キャリアビジョンを創る