ちょっと一息

新しいキャリア形成支援のカタチ

Web対面型システムで「全国どこでも」相談可能に

[2017/12/22]

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  働くことに対する個人の価値観の変化に伴って、一人ひとりが自分のキャリアを考えることは、非常に重要な意味を持つようになりました。そのため、企業内においても、従業員へのキャリアカウンセリング体制が整備されつつあります。
 しかし一方で、キャリア形成に先進的な企業であっても、なかなか解消できないハードルがあります。それは、地方や海外で働く人へのキャリアコンサルティングの実施が行き届かないことです。また、キャリアコンサルティングを受けることに関して、心理的抵抗の拭えない人がいることも否めません。

 そうしたハードルを解消・低減するひとつの方法として、日本マンパワーが始めた『Webによる対面型キャリアコンサルティングサービス』が注目されています。これは、スマホやタブレット、パソコンなどを使って、遠隔地でも対面してキャリアコンサルティングができる新サービスです。今後普及が進めば、キャリアコンサルタントの活動領域も広がっていくものと思われます。
 一体どのようなサービスなのでしょうか? 企業の人事ご担当者やキャリアコンサルタントの方は必見です。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 マーケティング部
 商品戦略・プロモーション課 課長
 中村 裕 さん


企業内キャリアコンサルティングの背景

 企業内におけるキャリアコンサルティングへの関心は、ここ2〜3年の間で大きく高まりました。その原因は主に3つ考えられます。
 1つは、2016年4月からキャリアコンサルタントが国家資格化されたことです。これによって、キャリアコンサルティングに興味を抱く人事担当者が増えてきました。
 2つめは、セルフ・キャリアドックの考え方です。セルフ・キャリアドックとは、企業がキャリアコンサルティングやキャリア研修などを組み合わせるなどして、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援しようとする取り組みです。これを制度化しようと、厚生労働省が2016年度から本格的に動き出しました。
 3つめは、2015年の労働者派遣法の改正です。この法改正により、希望する派遣スタッフにキャリアコンサルティングを実施することが派遣元企業に義務づけられました。
 これら3つの国の施策により、「自社のキャリアコンサルティング体制を整備したい」という日本マンパワーへの相談も増えています。


内的キャリアを重視する社員

 一方、社員一人ひとりに目を向けても、キャリアコンサルティングの必要性がうかがえます。働くことへの個人の価値観が、以前と大きく変わってきたからです。従来は、組織内の地位や実績、給料などの「外的キャリア」を重視する人が多かったのですが、近年は仕事のやりがいや自分にとっての意味づけ、仕事への満足度など、心理的な「内的キャリア」を重視する人が増えたのです。
 それは私自身の経験でも実感しています。私は以前、キャリアコンサルタントとして就業支援に携わっていましたが、みなさんに退職希望理由を聞くと、ほとんどが「自分に合わない」「やりがいを感じられない」などの内的キャリアか、あるいは人間関係によるものでした。外的キャリアを理由に挙げる人はほとんどいませんでした。
 そして、自分の価値観を見つけ、内的キャリアを成長させるためには、キャリアコンサルティングは非常に有効な手段なのです。
 専門家によるキャリアコンサルティング・相談に関する調査(独立行政法人労働政策研究・研修機構実施)でも、「相談経験あり」の人は「相談経験なし」の人に比べて「仕事に対する満足感」が2倍近くも高いことがわかっています。


ハードとハートのハードル

 このように、国の施策として推進され、その必要性・有効性が唱えられている企業内キャリアコンサルティングですが、残念ながら、まだ浸透途上だと言わざるを得ません。厚生労働省の「平成28年度能力開発基本調査」によると、「キャリアコンサルティングを行うしくみがある事業所」は、1000人以上規模の事業所で正社員62.4%、正社員以外41.5%、300人〜999人規模の事業所で正社員43.9%、正社員以外29.0%。企業規模が小さくなれば、パーセンテージはさらに低くなります。
 この背景にはさまざまな原因・事情があるでしょう。しかし、たとえ「キャリアコンサルティングを積極的に行おう」という意思があったとしても、キャリアコンサルティングにはハードルがあると言われます。私たちはそれを「ハードとハートのハードル」と呼んでいます。
 「ハード」とはいわゆる環境面を指します。たとえば、社内でキャリアコンサルティングを行おうとすると、2人で静かに話ができる個室が必要とされます。しかし、別の会議で使用する場合や、対象となる相談者が何人もいる場合、場所の確保をどうするのかが問題となります。物理的な環境を整えることにハードルがあるのです。また、相談対応するためには専門家が欠かせません。その人員の確保もハードルのひとつとなります。
 もう一方の「ハート」とは、相談者の心理面を指します。通常、企業内キャリアカウンセリングを受けるためには、相談希望者は指定された場所を訪問します。多くの場合、本社のキャリアコンサルティング室などになります。つまり、初めて訪問する場所で、あまり周りに知られたくないことを話すということです。まさにアウェー感を伴うその行動に、相談者が心理的抵抗を抱いてしまうことが、ハートのハードルとなりがちなのです。


ハードルを下げるWeb対面型システム

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 そこで、ハードとハートのハードルを少しでも下げようと、私たちは2年間にわたって開発を続けてきました。そうして2017年1月にリリースしたのが、『Webによる対面型キャリアコンサルティングサービス』です。
 これは、テレビ会議システムを応用した専用システムを使うことで、スマートフォンやタブレット、パソコンでお互いの表情を見ながらキャリアコンサルティングを行うものです。既存のシステムとは異なり、「特定のパソコンでしか使えない」ということはありません。予約した時間に、予約した社員だけが、どこからでも相談できる、セキュリティ万全のサービスです。

 本サービスの利用により、企業にとっても社員にとっても大きなメリットが生まれます。最大のメリットは、全国どこでも対応できるため対象者を拡大できることです。
 従来の、直接会う来談型のキャリアコンサルティングでは、先程お話ししたハードルがどうしても払拭できません。先進的な企業でも、キャリアコンサルタントが全事業所にいるわけではありませんから、キャリアコンサルタントか相談者のいずれかが出張しなければなりません。実際、「社員1人に対する1時間の面談のために、私が1日かけて出張することもある」という人事担当者もいました。社員の中には、「出張してまで受けようと思わない」「相談したいけれど、そのために出張するとは上司に言えない」などという人もいるのではないでしょうか。海外駐在員にいたってはまったく対応できていないのが現実だと思います。
 その点、『Webによる対面型キャリアコンサルティングサービス』であれば、地方でも海外でも相談することが可能です。出張に要する移動時間が大幅に減るので、その分、多くの社員の相談対応が可能になりますし、キャリアコンサルタントにかかる身体的負担も軽減できるはずです。


ホーム感を持てるので信頼関係を早く築ける

 第2のメリットは、コストの削減です。ある企業の担当者からは、全国の社員にキャリアコンサルティングを実施するにあたり年間400万円の交通費がかかると打ち明けられました。まず、そうした交通費を削減することができます。
 また、時間のコスト。来談型で今まで要していた移動時間がゼロになりますので、その分を別の業務にあてることが可能になります。生産性の向上にもつながります。

 さらに、相談者のハートのハードルを下げる効果もあります。
 初めて行く部屋をノックし、初めて会う人に自分の悩みを相談することを想像してみてください。誰でも緊張してしまうと思います。しかし、自分の働くオフィスで、あるいは自宅で、あるいはいつも使っている車の中で、など自分がリラックスできる場所で相談ができれば、ホーム感を持てます。それによって、心理的抵抗を下げることができるのです。
 実際、モニター調査などで利用していただいた人へのアンケートによると、「より素直に話すことが出来ると感じました」「特別な環境でないので普段のままリラックスできます」「来談型よりラポール(※)の形成が早い」「慣れない場所は緊張しますが、そのストレスが全くありませんでした」などの声をいただいています。同サービスで相談対応を行ったキャリアコンサルタントからは、「相談者の防衛や抵抗が和らぐようで、違和感なく深い話ができる」という感想もありました。

※ラポール=信頼関係

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仕事と治療の両立支援にも活用

 同サービスは、2017年10月から、仕事と治療の両立支援を行うサービスにも活用されています。東京海上日動火災および東京海上日動あんしん生命保険と連携した、がんなど五大疾病による休職から職場復帰を支援する保険に付帯されるサービスです。スマートフォンやタブレットを使うことで、病気療養中でも自宅に居ながらにして専門家によるキャリアコンサルティングを受けられます。
 病気療養中の方は、たとえ医師から復職の許可がおりても、職場復帰に対して大きな不安を抱いていることと思います。たとえば、がんになると3ヵ月以内に3〜4割の社員が退職すると言われています。しかし、病気になってもキャリアは続くのです。この支援サービスが、過去に積み上げてきたキャリアを生かし、より活き活きと人生を送ることにつながればと考えます。

 なお、『Webによる対面型キャリアコンサルティングサービス』は、日本マンパワーが委託契約を結ぶプロのキャリアコンサルタントが相談対応する仕組みとなっています。
 ただ、なかには「自社のキャリアコンサルタントで対応したい」という企業もあります。そうした要望に応えるため、現在、新しいシステムも開発中です。『キャリアコンサルティング業務支援システム』というもので、2018年夏頃にリリース予定です。

 どこでもキャリアコンサルティングを受けられること。それは、単なるひとつの方法に過ぎないかもしれません。しかし、企業にとっても社員にとっても有意義に活用できるのでもあるのです。ひいては、キャリアコンサルタントの活動領域も広がることでしょう。
 全国ネットワークを有する国内最大のキャリアコンサルタント養成機関として、みなさんのお役に立てれば幸いです。

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