ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方vol.45

組織に弊害をもたらしている「からくり」

[2012/05/31]


 古き良き日本の企業・組織には、「みんなで一致団結して成し遂げよう」というようなモチベーションやチーム力があったと言われます。しかし今、企業をはじめとする組織で働く方々から、次のような嘆きが聞かれます。
 「社員同士のコミュニケーションがうまくとれていないんですよ」
 「組織が縦割りになっていて、相互協力ができていない状況で」
 「疲れている従業員が多いためか、殺伐とした雰囲気になってしまって」キャリア1

 コミュニケーションの不足、モチベーションの低下、マネジャーの疲弊、メンタルヘルスの不調などさまざまな問題が、多くの組織で浮き彫りになっています。なかには、社内で足の引っ張り合いをしているという例もあるようです。
 これらの状況は、何を原因として生じたのでしょうか? また、お互いに協力し、成長し合えるような組織に変えるには、どうすればいいのでしょうか?

 日本マンパワーのコンサルタントであり、『組織開発ファシリテーター養成講座』の進行役も務める水野みちさんに、そのポイントをうかがいました。今号から数回に分けてご紹介いたします。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 人材開発企画部 研究開発G 専門部長
 水野 みち さん


組織開発は機械修理のようにいかない

 組織をより良い方向に導くため、個人の潜在能力や特性を活かし、組織風土を変革しようとする取り組みのことを、「組織開発」(Organizational Development)と呼びます。
 従来の日本において主流だった組織開発は、外部コンサルタントが従業員をアセスメントして企業分析・診断をし、組織を作り変えようとする手法でした。あるいは、強力なリーダーシップによって組織全体の仕組みや制度を変革する、という手法もありました。
 でも、そうした手法は、不景気の長引く中、上手くいかなくなっていることも多いと聞きます。なぜなら、組織は人で構成されていて、人には心があるからです。機械のように、不具合な箇所を取り除いたり、壊れた部品を交換したりすることで正常な稼働をする、というわけにはいかないようです。人は、否定されたら防衛が働きますし、プライドで動いたり、不合理と分っていても執着したり、感情的になったりするものだというところが、組織の難しさでもあり、興味深いところでもあります。人の心のメカニズムを深く理解することが組織を活かす重要課題だと思っています。


何かが変化すれば、誰かが変化する

 簡単な例を挙げます。
 ある会社内に、社員15人の部署があると仮定します。この部署に、問題児とされる社員が1人いました。その人は仕事へのモチベーションが低く、毎日のように会社やマネジャーに対する不平・不満を口にしていました。こうした状況について部署のマネジャーは、「ほかのメンバーに不平・不満が伝播するのではないか」と危惧し、その人を別の部署に異動させました。
 その後どうなったかというと、不思議なことに、別の社員が不平・不満を言い始めたのです。しかも今度は1人だけではなく、数人が口にするのです。
 この現象をどう考えればいいでしょうか? 実は、新たに不平・不満を言い出した数人は、以前から心の奥に不平・不満を持っていたのです。ただ、問題児とされてきた社員が自分の気持ちを声高に代弁してくれていたので“いい子”でいられただけでした。ところが問題児が異動したことで、強力な代弁者は不在になりました。ですから、その穴を埋めるために複数人が声を上げ始めたのです。

キャリア2 マネジャーは、外科手術あるいは機械のように「悪い」と思われる部分を除去しました。しかし、問題は悪化しました。なぜなら、不満の要因と向き合うことをせずに、表出しているものを切り取ってしまったからです。不満の声は、「悪」ではなく、組織が良い方向に向かうためのヒントだったのです。改善のためのヒントを消し去ってしまったために、組織の問題を調整しようと、今度は他のメンバーが動き出したのです。

 こうしたメカニズムを扱えるようになれば、組織のエネルギーをより良い形で発揮することができるでしょう。


システムを「見える化」すれば解決の糸口が見える

 また、「システム」という考え方もご紹介したいと思います。「システム」というと、会社の制度や仕組みを思い浮かべる人がいるかもしれません。ここで重視している「システム」とは、「見える化されていない関係のシステム」を指しています。「非常に見えにくい、意図せず影響している何らかの力の関係性」と言えるかもしれません。

 ひとつ例を挙げます。キャリア3
 ある夫婦が、学校で問題を起こす子供のことで悩んでいました。二人にとって大きな問題であり、改善したいのは子供の行動でした。関係のシステムに詳しい専門家の支援のもと、分ってきたことがありました。実はこの夫婦は仲が良くなく、日常的にまったく会話がない状態だったということです。そして、子供が問題行動を起こした時にだけ家族でテーブルを囲んで話をするということでした。つまり、子供は家族3人で、たとえ叱られるとしても、一緒に話をする状態を維持させたかったのです。問題行動の原因は、3人の関係性だったのです。
 この関係のシステムが見えると、焦点が違うところに当たり始めました。夫婦は、二人の仲を改善することに着手しはじめ、子供の問題行動が消えました。

 このように、私たちは目に見えない複雑なシステムとともに過ごしています。ですから逆に、「見える化されていないシステム」を「見える化」することができれば、組織が直面しているコミュニケーション不足やモチベーション低下などの問題についても、解決の糸口が見えてくると考えられます。誰かを問題とするのではなく、システムを扱うことで、組織は変わっていきます。

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 日本マンパワーでは、これらの考え方を実践に応用するための経験学習をカリキュラム化しました。さらにポジティブアプローチによる対話プログラムやプロセス指向心理学、U理論などを結集し、エグゼクティブ・カレッジ『組織開発ファシリテーター養成講座』を開催しています。システム思考を世界的に広げたアメリカの経営学者・ピーター M センゲの翻訳書『学習する組織』の翻訳を務めた小田理一郎氏も講師の一人です。
 第2期生の募集はすでに締め切っていますが、若干名であれば特別に受講をお請けできる可能性もございます。ご関心のある方は、下記ページをご覧の上、お早めにお問い合わせください。

 

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