ちょっと一息

30歳代ミドルに求められるインサイト営業 vol.2

誰も気づいていない課題をあぶりだす!

[2014/05/29]

画像1 顧客の課題をヒアリングし、それを解決するための商品・サービスを提案・提供する——こうしたソリューション営業では売上アップを望みにくい時代になりました。もちろん、そうしたソリューション営業でも成果を上げられる人はいるでしょうし、若手の営業パーソンであれば従来手法でも問題ないでしょう。
 ただ、30歳代ミドル世代やリーダークラスが目指すべき理想的な営業は、ソリューションではなくインサイト営業です。顧客すら気づいていない潜在的課題を見つけ、全体最適を提案することなのです。
 そのためには、個々の営業パーソンに「潜在的課題を発見する力=発見力」が求められます。

 ここまでは前回の本コラムでご紹介しました。
 では、発見力を高めるためにはどうすればいいのでしょうか?
 前回に引き続き、企業の営業課題解決に多大な実績のある元トップセールスマン・井坂智博さんにお話をおうかがいしました。ご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ
 代表取締役社長
 井坂 智博 さん

1963年生まれ。茨城県出身。名古屋商科大学大学院経営学修士課程修了(MBA)。リクルートグループにトップ営業として延べ11年在籍。人事組織戦略、採用戦略、営業業務の標準化コンサルティングなどの経験を有する。とりわけ営業業務の標準化では、日本の上場企業を中心に176社もの営業課題解決の実績がある。1997年ITベンチャー企業を立ち上げ3年で同社をM&Aで売却。NPO国連支援交流協会国際社会支援東京支部長、上場企業の役員を歴任後、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの経営支援を行い、年間260社の企業研修を受注し売上前年比1.7倍の実績を出す。2012年2月株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズを設立し、代表取締役社長に就任。障害者・高齢者などのリードユーザーを巻き込んだワークショップを展開している。名古屋商科大学キャリア形成非常勤講師、名古屋商科大学大学院戦略経営研究所研究員兼ビジネススクール客員講師。宣伝会議「営業力養成講座」講師、日経BP課長塾講師他。著書として「法人営業バイブル」(PHP出版)などがある。日経ビジネスオンライン執筆中。


発見する力は、質問する力

画像2 顧客すら気づいていない潜在的課題を見つけ、部分的な最適にとどまらず、全体的な最適を提案・提供する。こうしたインサイト営業を実現するためには、顧客の課題を発見する力が必要とされます。
 ただ、顧客すら気づいていないのですから、顧客に「何か課題はありませんか?」と質問しても、望むような解は得られません。それでは、どのようにすれば課題を発見できるのでしょうか?
 その第一歩は、質問の幅を広げ、質問の深さを深めことです。その上で、質問から得られた情報を整理し、顧客に課題の存在を気づかせてあげることが大切です。ただし、質問の幅を広げ、深さを深めるためには、営業パーソン自身の視野を広げる必要があります。自身のキャパシティが変わらなければ、質問の内容も変わりようがないからです。
 もっとも、キャパシティを大きくするのは一朝一夕にできることではありません。日頃の心掛けを積み重ねことが求められます。それには大きく2つあります。


どんなことにも興味・関心を持つ

 1つ目は、「どんなことにも興味・関心を持つ」ということです。
 たとえば職場で、隣の部署にトラブルが生じていたとします。そんな時、「何が起こったんだろう?」と思えるかどうか。自分のことにしか興味・関心がなく、「私の仕事は終わりましたから失礼します」と帰ってしまうようでは、キャパシティを大きくするのは難しいでしょう。
 あるいは、自社がターゲットとしないようなユーザーにも興味・関心が持てるかどうか。往々にして「彼らは我々の仕事にはあまり関係がない」と思いがちです。でも、それでは自分のキャパシティは大きくなりません。「彼らはどのような日常を送っているのか?」「彼らは何に困っているのか?」「彼らは何に価値を見い出しているのか?」などに思いが及ぶかどうかで、視野は大きく変わってきます。
 「どんなことにも興味・関心を持つ」ということは、簡単そうに思えますが、意外に難しいのです。だからこそ、日頃から意識することがすごく大事なのです。


関連づける力を養う

 2つ目は、「関連づける力を養う」ことです。
 いろいろなことに興味・関心を持っても、それを自分の仕事に関連づけられなければ、成果に反映されないからです。
 では、どのような観点で、どのような方法で仕事に関連づければいいのか? 私が研修講師を行っている時も、「先生、今うかがった話をどうやって仕事に活かせばいいですか?」などの質問をよくいただきます。
 しかし、それを人に聞いているようでは、顧客の潜在的課題を見つけるには至らなでしょう。どのように関連づければいいかは、自分で見つけるしかないのです。
 これは非常に難しいことで、営業パーソンだけの問題ではありません。新規事業開発や商品開発に携わっている人、あるいは企業のトップ層の人たちでもなかなかできないことです。私たち日本人は、与えられた目標や課題を解決するためのオペレーティングは得意ですが、何もない自由な状態で、自ら目標や課題を探し、決めて、やり方を考えていくことには慣れていないからです。
 でも、ほかの多くの人が持っていない力を持つことができれば、自分の大きな武器になることは間違いありません。


考えを巡らしてみよう

画像3 「2030年問題」をご存じでしょうか?
 私は、ビジネススクールに通う何人もの学生に、この質問をしました。ところが、答えられる学生は誰もいません。未来のことにはあまり関心がないようです。
 「2030年に携帯電話はなくなる、という説があります」
 こう言うと、みんなが「なぜですか?」と質問してきます。誰も自分で調べようとしません。
 インサイト営業を目指すなら、こうした態度ではなく、どんなことにも関心を持って、「本当だろうか?」と自分なりに調べて問題提起をする姿勢が求められます。それでようやく、自分の解を見つけられるようになります。

 ちなみに、「2030年に携帯電話がなくなる」という説は、材料科学を専門とする学者のセミナーで発表された仮説です。さまざまな鉱物資源データ等を分析すると、携帯電話に使われている金属の一部が、日本で十分に入手しにくくなる可能性があるからだそうです。
 水資源の枯渇問題も同様で、世界人口が予測通り増加して90億人になったと仮定すると、25%の人しか安心・安全な水を飲めなくなるとも言われています。もしかすると日本でも水不足が社会問題となり、消費者価格が現在の数倍に高騰するかもしれません。

画像4 「いや、そこまではいかないだろう。何とかなるだろう」
 多くの人がそう思うのではないでしょうか。確かにそうかもしれません。でも、それで思考停止してしまっていいのでしょうか。少なくとも、インサイト営業を目指す人であれば、考えを巡らす姿勢が望まれます。
 みんなが考えようとしないなら、逆に自分が考えてみる。
 「そこからどんな課題が見つかるのか?」
 「たとえば、自動車業界、繊維業界、IT業界にどのような影響を及ぼすのか?」
 「個人の生活はどのように変わるのか?」
 そのように考えていくと、もしかすると誰も思いつかないような画期的な問題提起ができるかもしれません。こうした日頃の心掛けが、自分のキャパシティを大きくしていのではないでしょうか。

★このお話の続きは、次回の本コーナーでご紹介いたします。

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