ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方Vol.14

キャリアカウンセリングのこれから

[2009/06/24]

 1905年、米国ボストンで職業選択の支援として本格的に始まった「キャリアカウンセリング」。日本では2000年にCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の資格認定がスタートし、キャリアカウンセラーは"キャリア形成の専門家"として役割を果たしてきました

 また、キャリアカウンセラーの活躍とともに、その役割は広がってきました。"仕事"の相談だけではなく、相談者の"キャリア"あるいは"人生""生き方"にまで影響を及ぼす存在として、大きな期待が寄せられつつあるのです。

 そうしたキャリアカウンセリングは今後、どのような方向に進んでいこうとしているのか? また、役割の広がりに伴って、キャリアカウンセラーに何が求められてくるのか?

 気になる「キャリアカウンセリングのこれから」について、日本マンパワーの立野了嗣さんにお話をうかがいました。ぜひご参照ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 キャリアドック形成推進本部 本部長(当時)
 立野 了嗣 さん

今後を左右する「キャリアカウンセラーの専門性」

 1998年、日本で初めて完全失業率が4%を超えました。翌年にはさらにポイントが増加し、雇用悪化が大きな社会問題となりました。
 そうした状況を改善する対策として、国はキャリアカウンセリングに注目します。そして2001年、厚生労働省が「1年で1万人、5年で5万人」のキャリアカウンセラーを養成することを掲げました。つまり、キャリアカウンセリングは当初、"失業率改善対策の手立て"として捉えられていたのです。

 しかし、CDAの資格認定・指定試験制度が始まり、実際にキャリアカウセリングが行政機関や学校、企業などで行われるようになると、その領域は広がりを見せ始めます。
 雇用問題だけに留まらず、キャリアや人生にまで広く関わってくることが次第にわかってきました

 そのため現在は、「キャリアカウンセリングがどのような方向に進展していくか」の過渡期にさしかかっていると言えるでしょう。キャリアカウンセリングのあり方や考え方が、多様化してきたからです。

 多様化の状況は、大きく2つの軸で分類することができます。

 ひとつの軸は"テーマの捉え方"による相違です。
 具体的には、「キャリアカウンセリングとは仕事や職業に特化したものである」という捉え方と、「キャリアカウンセリングとはキャリアや人生にまで関わるものである」という捉え方です。

 また、ふたつ目の軸は"アプローチの方向性"による相違。キャリアカウンセラーがクライエントにカウンセリングする際、「問題解決を目的としてアプローチする」のか、あるいは意味の実現を目的としてアプローチする」のかが、大きなポイントとなります。

 「意味の実現」とは、クライエントがその課題に対してどうしてそのように思ったのか(とても腹が立った、飛び上がるほどうれしかった、・・・・)などの内面に潜む意識を自覚し、望ましい状況獲得のために行動をとることを指します。問題解決の対照となる表現として、私たちが考えた言葉です。

 そして、この2つの軸によって分類されるマトリクスのうち、どの部分を「キャリアカウンセラーの専門性」として認識するかによって、キャリアカウンセリング自体の将来も大きく変わってきます。
 私たちはキャリアカウンセラーを名乗るかぎり、クライエントの「意味の実現」を目指すのが本来の姿だと思っています。

カウンセリング現場における2つのアプローチ

 2つの軸のうち、"アプローチの方向性"について、具体的なカウンセリング現場を例にしてご説明しましょう。

 たとえば、Aさんがクライエントとして相談に来たとします。Aさんの悩みは、転職に関することのようです。カウンセラーに相談の内容を尋ねられると、「転職したいのですが、どうもうまくいかなくて・・・」と言葉少なに話しました。

 このAさんに対して、「問題解決を目的としてアプローチする」カウンセラーは、「転職したいのですが」という言葉を聞いた時点で、「転職希望者だ」との思い込みが働きがちです。
 そして、「今のお仕事は何ですか?」「以前はどのようなことをやっていましたか?」「どういう仕事にやりがいを感じましたか?」「どのような能力が身につきましたか?」「今後はどのような仕事に就きたいですか?」などのヒアリングを行った上で、転職のための情報を提供しようとする傾向にあります。

 もし、Aさんの転職がうまくいかない理由が情報入手の偏りであるならば、こうしたカウンセリングは効果があるでしょう。
 しかし、Aさんが抱える問題は、「自分に自信がないため積極的に転職活動できない」ということでした。しかも、その原因にAさんも気づいていなかったのです。ですから、カウンセリングによる情報提供に、Aさんはピンときませんでした

 このように問題解決型のアプローチでは、クライエントがおいてきぼりになってしまう可能性があります。

 一方の「意味の実現を目的としてアプローチする」キャリアカウンセラーであれば、情報提供のためのヒアリングではなく、「Aさんの問題は何か?」という視点でアプローチします
 クライエントの内面に潜む意識を発見しようとするのです。ですから、「実はお母さんの具合が悪くて・・・」とか「今の上司には話しづらくて・・・」など、転職という言葉の背後にある"思い"を掘り下げていくことが重要になります。

 その結果、「自分は転職したくて相談に来たけれど、問題はそれじゃなかった! 今の仕事が嫌なんじゃなくて、上司にプライドを傷つけられていたから自信をなくしたんだ!」などと、Aさんがハタと気づくことにつながるかもしれません。

 このように、クライエントとカウンセラーとが一緒になって内面に潜む意識に気づき、「どのように乗り越えていくか」の考えを促すことが、キャリアカウンセリングに求められる役割だと思います。

今後のキャリアカウンセラー養成に向けて

 表現は多少変わりますが同じ理由から、日本マンパワーではキャリアカウンセリングを"自己概念の成長を促す活動"だと考えています。
 そして、キャリアカウンセラーは"人と社会の間に立ち、自己概念の成長を促すChange Agent"であるべきだと思います。

 "Change Agent"という表現を提唱したのは、米国の著名なカウンセラー、L・サニー・ハンセンです。直訳すれば"変革の仲介者"。的確に言い得た表現だと思います。
 日本においても、今こそ「キャリアカウンセラーの専門性」を広く捉え、今後のあり方を再構築すべき時期にあると考えています。今後のキャリアカウンセラー養成にあたっても、そうした方向で専門性を示していきたいと考えています。

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