成果を出す会社は、社会人としての基礎が徹底されている
[2013/07/30]
今春、ある会社の新入社員研修で、受講者からこんな声が洩れ聞こえました。
「敬語って英語みたい。難しくてわからない」
冗談のような話ですが、実話です。メール文化やアルバイト言葉が蔓延した結果なのでしょうか。以前は当たり前のように使っていたはずの敬語が、今や「初めて聞くかのような言葉」になってしまっているようです。
だからこそ、みなさんの会社で新入社員研修を実施する必要があるのでしょう。
もっとも、研修を1回実施しただけでビジネスマナーやコミュニケーション力が身につくと考えるのは楽観的すぎます。研修は動機づけや一斉周知には非常に有効な手段ではありますが、身につけるためのトレーニングに十分な時間を割けないケースも存在します。その証拠に、自社の社員全員が「どこに転職しても恥ずかしくない社会人スキルを身につけている」と自信をもって言えるでしょうか? 往々にして、「ウチの社員はビジネスマナーもコミュニケーションも問題ない」と社内基準で思っているだけで、他社から見れば、顧客や取引先に不快を与えているケースが少なくありません。しかも、新入社員だけでなく、中堅社員までもが・・・。
本記事では、こうしたテーマにスポットを当てます。耳の痛い話となるかもしれませんが、それだけに意義深い内容かと思われます。ぜひご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
株式会社日本マンパワー
人材開発支社統括部
仙台支社 支社長
野沢 敏也 さん
研修だけでは身につかない
弊社の通信講座に『新社会人のビジネス・ベーシックコース』というものがあります。この講座は、新卒内定者や入社1〜2年の社員を対象に、ビジネスの基礎やコミュニケーション、ビジネスマナーを習得するための講座です。この講座を、内定者もしくは新入社員の受講必須講座とされている会社が何社かいらっしゃいます。ただ最近は、弊社講座に限らず、こうしたビジネス基礎講座を受講させる会社が減ってきているようです。予算との関係もあるのでしょうが、「新入社員研修のプログラムに入れるから大丈夫」だと考えているご担当者様もいらっしゃるようです。
しかし、コミュニケーション力やビジネスマナーは、2〜3日の研修を1回受けただけで十分に身につくものとは言い切れません。なぜなら、最近の学生は、以前の学生に比べて「あいさつ」「言葉遣い」「マナー」などの点で知識が不足しているからです。その理由は定かでありませんが、携帯電話やメールの普及などによって「常識」が変わってしまったのかもしれません。
知識の足りない状態の新入社員に研修をすると、「初めて気づいた」という状態になることはできますが、「改めて再認識して身につける」までには至りません。たとえば電話応対だけを取り上げても、一度「このように応対するんだよ」と教えたからといって、すぐに身につくものではないでしょう。実際のビジネスシーンにはさまざまな基礎知識を応用して対応しなければならない電話がかかってきます。そうした電話に的確に応対するためには、マニュアルを示しながら基本を教育し、なおかつ実践的なトレーニングを積む必要があります。
つまり、もし「新入社員へのビジネス基礎教育は、新入社員研修だけで十分」と考えている人事・教育ご担当者様がいらっしゃるとすれば、定着という観点からすると、再考をお勧めしたいところです。
OJTでは教えられない現状
実践的なトレーニング方法のひとつとして、すぐにOJTが思い浮かびます。しかし、コミュニケーションやビジネスマナーに関してOJTが効果的に機能するかどうかは極めて疑問です。なぜなら、OJTトレーナー自身が的確なビジネス基礎を身につけているとは言い難い現状があるからです。
たとえば電話の伝言メモ。みなさんの会社で、「会社名か担当者のいずれかを聞き取れていない」という事例はありませんでしょうか? 報連相の基本として、電話の相手の社名と氏名を確認するのは当たり前です。たとえ相手が名乗らなかったり聞き取れなかったりしたとしても、再度確認する必要があります。その当たり前のことが、みなさんの会社で徹底されていますでしょうか?
あるいは、メールの設定について。みなさんの会社では、社外の人のメールアドレス登録時、氏名欄に「様」を付けるよう指導していますでしょうか? また、署名は社外用と社内用を使い分けるように指導していますでしょうか? 件名を具体的な内容がわかる表現にするよう指導していますでしょうか?
OJTでトレーニングをするのであれば、こうしたことをOJTトレーナー自身が実践し、それを新入社員に教育できるようにしておく必要があります。
「先輩もやっていないから」
しかし残念ながら、実態はその逆に近いように思います。OJTトレーナー自身が実践できていないケースが少なくないのです。それどころか、そのさらに上の先輩社員も基礎ができていないケースが散見されます。
こうした職場環境で、新入社員はどのような行動をとるでしょうか? たとえ研修で正しいコミュニケーションやマナーを教えてもらっても、配属された職場の先輩はそれを実践していない。そうすれば、「先輩もやっていないのだから、私もやらなくていいんだ。研修は建前であって、実際にはそうしなくてもいいのね」と考え、先輩の真似をするのが一般的です。
では、なぜ先輩社員がコミュニケーションやマナーを正しく実践できていないのでしょうか。それはおそらく、自分がきちんとできていないことに気づいていないからでしょう。なぜ気づいていないかというと、知らないからです。つまり、先輩社員もきちんとトレーニングの機会を経ないで職場で業務についているからです。そして、それでも日々の業務は回っていきます。
基礎をなおざりにすると会社にダメージ
ただ、コミュニケーションやマナーがきちんとできていないと、会社に何らかのダメージをもたらすでしょう。社内のコミュニケーションがスムーズにいかないことで生産性が下がったり、トラブルになるリスクを高めたり、人間関係を悪くしたり。社外に対してはなおさら直接的なダメージを受けやすくなります。たとえば、電話に出た人の対応が悪ければ、その会社に対して相手が抱く印象は悪くなるはずです。ビジネス基礎の教育をなおざりにしていると、ひとつひとつの人的接点がボディブローのように効いてくるのです。
もちろん、社内にはそうしたビジネス基礎がきちんとできていて、常日頃から指導・教育できる方もいるはずです。しかし、注意された社員はもしかすると「この先輩は口うるさい人だなあ」と思ってしまうかもしれません。職場全体でコミュニケーションやマナーを重視する風土ができていないと、正解を指導・教育する人が正当化されないという状況になる危険性もあります。
組織の成果を高めるためには的確なコミュニケーションが必要であり、的確なコミュニケーションを図るためには円滑な人間関係が欠かせません。そして、私は円滑な人間関係のベースは、基礎的なビジネスマナーやコミュニケーション力にあると思います。
ですから、全社員が基礎力を高める意味で、「新社会人のビジネス・ベーシックコース」は新卒内定者や入社1〜2年目に限らず、極端に言えば、全社員に受講を義務づける方がいいかもしれません。