CDAは自分の殻を破る『爆弾』、考え方のバリアをなくせる
[2017/10/30]
キャリア形成の支援の専門家たちは、なぜ資格取得を目指し、どのような学びをしてきたのか? 今、どのような活動をしているのか?
そうした疑問にお答えするため、本シリーズでは、キャリア形成支援者ご自身のキャリア形成についてインタビューしています。
本記事は、前回ご紹介した鈴木千春さんの後編。鈴木さんは、国家資格キャリアコンサルタントとCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)のダブル資格を保有し、保険会社の営業職として活躍されています。
でも、資格取得の過程で学んだことは「仕事よりもプライベートで活かしている方が大きい」ようです。しかも、「とても楽しくて、やりがいがある」と言います。
具体的にどのようなことなのでしょうか? ぜひご一読ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
保険会社勤務
営業職
国家資格キャリアコンサルタント
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
鈴木 千春 さん(男性)
4つのCDA資格活用
私がCDAに合格したのは2015年の春です。旧制度の第46回試験でした。
ちょうど50歳の時に人事異動があって、少なからず悩み、将来に漠然とした不安を抱きましたが、CDAの学びのおかげでさまざまな気づきを得ることができ、落ち込んでいた気持ちが楽になりました。
資格を得てからは、新しい自分に出会えているようです。実際、さまざまな場面で学びを役立てられています。私の場合、その活かし方は大きく4つに分類することができます。
まず1つは、自分の考え方への活用です。何か出来事が起こった時、それに対して自分がどう捉えるかが変わりました。
たとえば、出向に対して。私は51歳の時に取引先への出向を命じられました。一般的に、50歳を過ぎてからの出向は、元の職場に戻ることが難しく、転籍あるいは転職に至るケースが多いと言われています。本人にとっては「これで会社人生も終わりかな」と感じる人もいることでしょう。
その点、私は前向きに捉えることができました。「今まで自分が培ってきた考え方やスキルがほかの会社でも通用するのかどうか、試すことができるチャンスだ」と思えたのです。ですから、喜んで出向の辞令を受けました。
『キャリアカウンセラー養成講座』(キャリアコンサルタント養成講座の前身)でハップンスタンス・ラーニング・セオリーという理論を学びましたが、まるでそれが自分に当てはまったようです。この理論は、「偶然の出来事は人のキャリアに大きな影響を及ぼし、かつ望ましいものである」という考え方で、偶然の出来事をチャンスに変えるためには、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、リスクテーキングが必要だとされています。
私にとって、出向はまさに偶然の出来事でした。それに対して、「違う会社で自分を試してみたい」という好奇心や、「自分の凝り固まった考え方をほぐしたい」という柔軟性への思いが働きました。
もちろん、これを知っていたというだけで、前向きに考えられたわけではないと思います。ただ、さまざまな理論を自分なりに消化したり、さまざまな人と出会ったりするなど、CDAの学びを通して気づきを得たことが影響したのは間違いないと思います。
社内の対話で活かす
CDA資格は、仕事の中でも活かせています。
私は営業職ですからキャリアカウンセリング業務をしていませんが、最近は、社内で対話を促進していこうと枠組みがつくられています。たとえば、部下との業績面談とは別に、キャリアに関する対話が求められているのです。そうした際、CDAの学びが非常に役立っています。
先日は、ある部下との対話の席で将来のキャリアについて話しました。「今後、自分の仕事やキャリアについて、どういう風に考えているの?」などと、何度も練習したキャリアカウンセリングのロールプレイングの姿勢で、話を聴いていきました。そうすると彼は、「教育や企画の仕事をしてみたい」「本当は学校の先生になりたかった」と本音を話してくれました。
彼の本音を聴けたのは、CDA学習をしたからに違いありません。「人の話を聴くとはどういうことか」「相手が本音を話すためには何が求められるか」について、実践も含めて学んだからこそ、実現できたのだと思います。以前の私であれば、本音を聴く前に、自分の価値観を押し付けていたかもしれません。
その後、彼には仕事とは別に高校生のキャリア支援の提案をして、すごく喜んでもらえました。その喜びを目の当たりにできたこと、今後のキャリアに対するモチベーションの向上を感じられたことは、本当にうれしい限りです。CDAを取って良かったと思う、ひとつの瞬間です。
高校生のキャリア教育支援
CDA資格の活かし方、3つめは、高校生のキャリア教育を支援するNPO法人が行っている「16歳の仕事塾」の講師です。
このプロジェクトは、高校からの依頼を受けて、社会人講師による授業や、自分の興味・価値観を探る自己理解ワークショップ、社会人にインタビューをして自らの将来を考えるきっかけとするワークショップ、チームで論理的に話し合うことを体験するワークショップなど、さまざまな切り口でキャリア教育の支援をしています。
私はこのプロジェクトの社会人講師として、「保険会社にはどんな仕事があるか」、「仕事でどんな失敗をしてきたか、そこからどう立ち直ったか」、「なぜ今の仕事を選んだか」「自分が学生時代に何をやっていたか」などについて、興味・価値観・能力という自己理解の要素に整理しながらお話ししています。
講師を通して高校生に伝えたいのは、「いろいろな経験をしてほしい」「経験して初めて自分の強みを見つけられる」ということです。こうしたお話ができるのも、CDA学習で「経験から学ぶ」ということを学んだからだと思います。
地元中学の1年生に社会人授業
最後の4つめの活かし方は、地域での活動です。
私の住んでいる地域では、住民が中心になって、中学1年生を対象に「仕事」に関する社会人授業を行っているのですが、私も事務局としてかかわっているのです。
どのような活動かと言うと、そもそもは同じ学校に通う子どもを持つ親の集まりが発端です。そうした親たちは「多忙な先生方の役に立ちたい」と、花火大会の主催や運動会やお手伝いをしてきました。そんなある時、地元の公立中学校から「キャリア教育の一環として、1年生を対象に社会人授業をしてくれないか」とオファーがあったのです。
社会人授業は1年に1回、12月から1月に行われます。生徒が数人ずつのグループに分かれ、1グループに対して1人の講師が「仕事の内容」や「働くことの意義」を話します。講師は地域の人や卒業生、卒業生の保護者など約20人。事務局は半年間ほどかけて学校側と協議をしながら、テーマ設定や講師探しなどの準備・運営を担います。
私は最初、講師として参加しました。それがきっかけで、その後もずっと事務局メンバーとして活動しています。
この活動を通してわかったのは、CDA学習で学ぶことはいろいろな面で役に立つということです。キャリア教育に関する知識はもちろん、授業の進め方やワークの取り入れ方についても、CDAを学んだからこそ見えてくるものがありました。
もっとも、自分に不足している部分も見えてきましたので、今はワークショップについての勉強をするために休みの日に学校に通っています。
CDAは自分を変える
こうして改めて考えてみると、私にとってCDAという資格は、自分自身を支援してくれる資格のような気がします。キャリアカウンセリング業務の経験がないからそう思うのかもしれませんが、誰かを支援することは最終的に自分磨きにつながると思うのです。
さらに言えば、CDA資格は「自分の殻を破る『爆弾』」だと思います。殻というのは、固定観念やクセのようなものです。『爆弾』でなければ破れない殻です。
私自身にも、50年以上生きてきた中で凝り固まってしまった硬い殻ができていました。たとえば仕事では、現場責任者として、どうしても「こうあるべき」「こうでなければいけない」という思考が先行してしまいます。そして、部下に最終目標を示すだけではなく、そこに至る道筋にも自分のやり方・考え方を押しつけてしまっていました。それが正しいリーダー育成であり、正しい後進育成だと考えていました。自分が間違っているとはまったく思わず、決めつけてしまう。そんな自分の殻が物事の考え方のバリアになっていたように思います。
しかし、その殻はCDA資格という『爆弾』によって完全に破壊されました。考え方のバリアがなくなり、柔軟に考えられるようになりました。また、余計な固定観念も流れ出たように思います。おかげで頭の中の容量が増え、いろんなことを吸収したいと考えるようになりました。
それには、さまざまな仲間と知り合えたことも大きく影響しています。同じ悩みを持っている人、同じ志を持っている人、多様な業種の人など、これまで出会ったことのない人と仲間になれる機会は非常に貴重でした。しかも、みなさんCDAですから、よく話を聴いてくれる。まるで、自分の応援団のような気すらします。
おそらく多くのみなさんにとっても、CDAは自分を変えるための手段として非常に有効な資格だと思います。特に、人生の転機にさしかかっている人、キャリアの資格に興味を持っている人は、ぜひチャレンジしてみてください。きっと、自分の中に新しい何かが生まれるはずです。