ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方vol.25

大学生が「キャリア教育」で初めて気づくことは・・

[2010/07/01]

career_1 大学関係者から聞くところによると、大学生の授業中の態度は相当悪いようです。「私語が止まない」「携帯電話で会話する」「ずっと座っていられない」「悪びれずトイレに行く」「弁当を食べ始める」・・。東大の研究グループが大学教員を対象に行った調査をみても、授業の妨げとして「授業中の携帯電話・私語」を挙げた教員が64%に上っています。
 こうした態度の悪さは、何が原因になっていると思いますか? 反抗心ではありませんよ。多くの関係者が口を揃えて指摘するのは、「精神年齢の幼さ」です。
 でも、学生たちは2〜3年もすれば就職活動をし、社会人となります。みなさんの会社にも入社してくるでしょう。お子さんがいる方は、自分の子どもが同じ状態になる可能性もあります。果たしてしっかり働けるのかどうか、他人事ではありませんね。
 学生・生徒の現状に危機感を抱く大学や高校では、学校独自のキャリア教育が行われています。そこで今回は、日本マンパワーが協力させていただいた、大学におけるキャリア教育の事例をご紹介いたします。「精神年齢の幼さ」をうかがえる反面、「気づきによる成長の兆し」もうかがえます。“大学生の実態とその対策”をつかむヒントにしてください。

●今回お話を聞いたのは・・・
 株式会社日本マンパワー
 キャリアドック部 次長
 CDA(キャリア・ディベロップメント・アドバイザー)
 植木 千秋 さん


チームワークと規律性に大きな欠如

 日本マンパワーでは学校現場でのキャリア教育をお手伝いさせてもらっています。これからお話しする事例は、ある大学の1年生を対象に行った授業についてです。

carrer2 その大学では、授業の前に『社会人基礎力テスト』を受けてもらいました。テストは、社会人の基礎力(経済産業省提唱)を3つの能力/12の要素に分類して、それぞれの“身につけ度合い”を測定するテストです。3つの能力とは、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」。これらそれぞれが3〜6の要素に分解され、12の要素を構成しています。
 さて、テスト結果は・・。この大学では、「チームで働く力」が低く、中でも「規律性」の数値が目立って低い、という傾向が顕著に表れました。この結果を受けて、大学の先生方と「どのような授業をすれば改善できるか?」と相談しました。
 私たちが提案し、大学にも賛同いただいたのは、職業カード教材『ハピキャリキット』を使ってグループディスカッションを行う手法です。自分の言葉で仕事や職業について語り合うことが、今の大学生に必要だと考えたからです。


友だちと語り合っていない現代学生

 グループディスカッションの授業は2回行いました。初回の授業では、最初に次のような課題を出して、「なぜそう思うか?」をグループ内で話し合ってもらいました。

  あなたはどっち?
  何をするのにも困らないだけのお金があったら…
    働く  or  働かない

 そうしたらすかさず、学生から予想外の質問が飛び出ました。
 「正しいのはどっちですか?」
 正解を求められる学校教育が浸透しすぎてしまい、自分の思いを話し合う時にも「正解」を探す習慣ができているのでしょう。
 「正解はありません。人によって違います。自分がなぜそう思うかを話し合えばいいんですよ」と説明すると、あちこちのグループで「なんで?」と友だちに問いかけ、「私はこう思うから」などと、ワイワイ話し合う状態に変わっていきました。そして、「へぇ、そうなんだ!」「意外! そんな風に考えていたんだ」など、友だちの思いに反応する声がたくさん聞かれました。

 そこで私たちが感じたのは、「ああ、この子たちは自分の思いについて友だちと対話した経験が少ないんだ」ということです。人は、周囲との関わりを通して成長していくものですが、そのあたりの経験も浅いと思います。それが「精神年齢が幼い」という評価に結びついているのかもしれません。


学生にうかがえた「心の変化」

career3 『ハピキャリキット』を使ったディスカッションでは、「自分がやってみたい仕事の共通点」をテーマにしました。
 まず、代表的な職業の絵が描かれた60枚のカードの中から、「自分がやってみたい」というカードを個別に選んでもらいます。そして、その共通点をグループ内で話し合ってもらうというワークです。
 『ハピキャリキット』のカードは職業を絵で示してありますので、知識や情報にとらわれず、イメージを自分の言葉で話しやすい特徴があります。活発な話し合いが行われました。このディスカションに対する学生の感想には、次のような内容が見られました。

 ・たくさんの仕事があるということがわかった。
 ・今まで「やってみたい」と思っていた仕事と、今日のワークで「やってみたい」と思う仕事が違っていた。いろいろな仕事の内容を深く追求したいと思う。
 ・自分の向いている職業が社会的なものが多く、意外だった。自分のやりたいことは趣味や価値観に直結しているということがわかった。
 ・自分に合う職業をがんばって見つけたい。

 また、2回目の授業では職業の特性を話し合うワークを行い、授業の最後に「カードを使って気づいたこと、発見したこと」について感想を聞きました。それには、次のような回答がありました。

 ・なりたいと思っている職業は、実際には裏でたいへんな作業があったり、精神的にもストレスがたまることがよくあるということがわかった。
 ・自分にとっては人と接することが楽でも、それが苦手な人にとってはその仕事が苦になる場合もあることがわかった。
 ・まったく違う職業でも、特色が似ていることがあるのだと思った。
 ・ほかの人のやってみたい仕事と、自分のやってみたい仕事が全然違っていたので、みんな仕事への興味の持ち方が違うことに気づいた。
 ・ハピキャリキットは、自分の将来のことについて詳しくわかり、気づかせてくれるものであり、将来のことも今のうちに考えておかなければいけないとわかった。

 1回目よりも2回目の方が「気づき」や「意欲」が深まったようです。


学生に期待できる3つの効果

 ほかの大学でもそうですが、キャリア教育の授業を通して学生が得られることは、大きく3つ挙げられます。

career4 まずひとつが、自分と友だちとの相違の発見。さきほどもお話ししましたが、学生たち同士、普段はあまりお互いに突っ込んだやり取りや踏み込んだ話など、対話らしい対話をしていないようです。ですから、こうした授業で強制される機会があって初めて、「友だちは自分と考え方が違うんだ」ということが発見できる子も多いようなのです。学生のコミュニケーションの現状は少し残念ではありますが、以降の成長につながればと思います。
 二つ目は、「自分と仕事」「自分と社会」のつながりについて、腑に落ちるということです。もちろん、キャリア教育授業前から「なりたい職業」をしっかり意識し、努力している学生もいます。ただ、多くの学生の場合、それはあくまで「なんとなく」でしかなく、一面的なとらえ方だったり、他人事のような感覚なのだと思います。でも、ディスカッションを通して「何のために働くか?」「自分がやるとすればどうか?」などを考えながら仕事や職業を見つめると、これまでの自分とこれからの自分を徐々に結びつけることができ、当事者意識が芽生えるのです。そこで多くの学生が「はっ」と気づき、自分の就きたい仕事の方向性について現実感をもって意識するようになるのです。
 三つ目は、自分の言葉で表現したり、紙に書き出して整理したりすることで、自分の考えが明らかになり、さらに深まるということです。そして、「なんとなく考えていた仕事」を自分が就くという視点から、具体的に考えるきっかけになります。「話す」「書く」という作業には、そうした効果があるのです。これまで目先のことだけを考えて日々をやり過ごしていただけの状態から、「もっと知らなきゃ」「もっと考えなきゃ」という主体的な意識を持つきっかけになればと考えます。

 これら3つは、私たち自身がキャリア教育のねらいとしてるものです。
 学生たちが意欲をもって自分に合った仕事を探し、将来に生かせるような日々の経験を積み、生き生きと主体的に社会へ歩き出していくことを願っています。

  • 講座コンシェルジュ

    おすすめの講座・資格をご紹介

  • 講座を選ぶ

    キャリア形成にお役立てください

  • キャリアを考える

    キャリアビジョンを創る