ちょっと一息

ハッピーキャリアの作り方 vol.90

自分のストーリーを語ると未来への方向性が見えてくる

[2016/09/28]

 

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 どんな人にも、生まれてから現在までの人生ストーリーがあります。そして、当たり前ですが、そのストーリーは一人ひとり違います。
 みなさんは自分のストーリーを誰かに語ったことはありますか?

 きっと、多くの人が「NO」と答えるではないでしょうか。
 「私のストーリーなんて、語るほどのものじゃない」
 そんな風に思ってしまうかもしれませんね。
 でも、「人は自分のストーリーを語れば語るほど、それが現実的なものになる」という説もあります。ストーリーを語ることで、未来に向けてのパワーを得られるそうなのです。実際、「語り」をキャリアカウンセリングに活用している取り組みも広がりつつあります。
 そこで、日本キャリア開発協会の理事兼事務局長である大原良夫さんに、ストーリーを語ることの意義や効果、その背景などについてお話をうかがいしました。


●今回お話を聞いたのは・・・
 日本キャリア開発協会
 理事 兼 事務局長
 大原 良夫 さん


ストーリーを語ることで何かが変化する

 私は以前、「あなたが今まで生きてきた人生をお話しください」というアクティビティを行ったことがあります。それは「キャリオグラム(Career-O-Gram)というもので、「一番最初になりたかった職業は何か、そのことに影響を及ぼした人は誰か、この時に影響を受けた社会的あるいは個人的出来事は何か」などを年代順に質問していきます。私がキャリアカウンセラーとして、相手の人と1対1で、子どもの頃から現在に至る人生を時系列に振り返りました
 このアクティビティを受けた方の中で何人かの方は「つまらない人生ですけど聴いてもらえますか?」と切り出します。でも、実際にはそんなことはまったくないのです。みなさんの人生はすごく興味深いのです。まるでテレビドラマを見ているような面白さです。
 私があまりにも興味深く聴くので、相手の人も「私の人生ってそんなに面白いですか?」という反応になったりします。「いやあ、実に面白いですよ」と私が言うと、その人もどんどん自分の過去の出来事や思いなどを語ります。そして、その人と私との関係性が深まるとともに、その人のその後の行動が前向きに変わっていきます
 ストーリーを語ることによって、明らかに、その人の中で何かが変化しているのです。


自分の過去が「意味ある過去」に変わる

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 こうした「語り」にいったい何が隠されているのでしょうか。
 別の例として、私が自分の過去をキャリアカウンセラーに語った時のことをお話しします。キャリアカウンセラーは、私の話を興味深く聴いてくれました。そうすると私は、つい話を作ってしまうのです。それは、事実をねじまげて話すという意味ではありません。過去の自分の行動に何らかの意味づけをするという意味です。たとえば「あの時私がそうしたのは、○○を○○しようと考えたからだと思います」という風に。
 そうして語っていると、自分の中でもっともらしいストーリーができ上がっていきます。それまで「大したことがない」と思っていたことや意識したことがなかったようなこともストーリーの中に組み込まれ、「私がやろうとしていたことは、ひょっとしたらこんなことなんじゃないかな」と、意味ある過去に変わっていくのです。

ストーリーを語ると自分の方向性が見えてくる

 こうした変化の背景には、「過去から現在へ、現在から未来へ」という時間の流れが関係しているように思います。
 これは私の持論ですが、時間には因果論目的論の両方があると考えています。
 平たく言えば、因果論というのは「昔こうだったから、私はこうなった」という考え方で、目的論というのは「私は将来こうありたいから、今こんなことをしている」という考え方です。人生のストーリーを語ろうとする時、この2つが自然に語りに現れるのです。

 まず因果論について考えてみましょう。先ほど私は、ストーリーを語る時に「過去の自分の行動に何らかの意味づけをする」とお話ししました。これは故意にではなく、自然にそうなります。自分の過去を語ろうとすると、過去の事実に意味づけしようとしてしまうのです。
 この意味づけこそまさに因果論です。「昔、私にはこんな出来事があった」ということを原因とし、「だから今、私はこうなった」という結果に結びついています。ストーリーを語る人が過去と現在を結びつけてしまうのは、人には因果を信じようとする習性があるからだと思います。
 一方で、私たちは「将来どうありたいか」という未来に向けて、「そのために今どうするか」と目的論的にも生きています。そして、目的が見えてくると、人は未来に対して前向きに元気になることができます。

 このように、「過去から現在へ」の因果と、「現在から未来へ」の目的がつながるように意識させてくれるのが、時間の流れです。そして、自分の時間の流れ、つまり「自分は何のために生きているのか」という人生のテーマを一本の糸のようにつなげてくれる行為が、「自分のストーリーを語る」という行為ではないかと思います。
 人生のテーマが見つかると、自分の方向性が見えてきて、その先に豊かな人生が見えてくるでしょう。それによってハッピーになれば、とてもすばらしいことではないでしょうか。


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キャリアカウンセラーが「語り」を開く

 もちろん、自分について語らなくても生きていけますし、必ずしも私的なことを話す必要はありません。でも、自分の中に何らかのストーリーがないと、確固とした自分を感じにくく、落ち着かないかもしれません。逆に、私がキャリオグラムで出会い、アクティビティを終えた人たちは、なんとなく内から光を発しているような明るい表情が見られました。

 ただ、語りを一人で行うのは非常に難しいことです。「その時どんなことがあったの?」「もう少し詳しく教えて」などと、語りをていねいに開いて意味づけを助ける第三者の介在が必要です。私はそれを、キャリアカウンセラーに担ってほしいと期待しています。
 すでに、語りを取り入れたキャリアカウンセリングは、21世紀にマッチした新しい理論として注目されています。なかでも私が最も興味を抱いているのは、米国の学者、マーク・L・サビカスの理論です。サビカスは、アドラー心理学や構成主義の考え方を取り入れ、キャリア構成理論を提唱した人物です。
 サビカスは、「人は自分のストーリーを語れば語るほど、それが現実的なものになる」とも言っています。
 なお、語りやストーリーは専門用語で「ナラティブ」と呼ばれ、ナラティブ・アプローチによるキャリアカウンセリングは「ナラティブ・キャリアカウンセリング」と呼ばれます。


生きるための指針を自分でつくれる

 キャリアカウンセリングは現実を反映します。ナラティブが注目されてきた理由には、次のような時代背景が関係しているのではないでしょうか。
 私たちが仕事をするにあたって、以前は、会社の指示通りに働いていれば、文句を言われませんでした。先輩に倣うことが求められ、先輩に倣っていればヨシとされていました。しかし現在は、会社の指示に従っているだけだったり、先輩の背中だけを追っているだけだったりすると、ヨシとされません。終身雇用も崩れていますので、安定した将来を会社が支えてくれる保証もありません。いわば、生きるのが難しくなってきた時代だとも言えます。
 そうした中で、自分の一番の支えになるのは自分です。ですから、自分の生き方を自分で考えなくてはならなくなりました
 では、自分で考えるためにどうすればいいのでしょうか?
 そのひとつの有効な方策が、自分のストーリーを語ることなのです。なぜなら、自分のストーリーを語ることによって、生きるための指針を自分でつくれるからです。しかも、その指針は、世界にひとつだけしかない自分だけのオリジナルです。


「自分らしく生きたい」という人のために

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 また、時代背景という点でもうひとつ挙げられるのが、人間関係が希薄になってきたことです。人間関係が希薄になれば、人生はなんとなく寂しくなってしまいます。
 だからこそ、ナラティブに「共に対話する」重要性がクローズアップされてきたのでしょう。対話をすれば、その人のことを深く理解できるだけでなく、お互いを通して社会と自分がつながっていることも実感できます。ナラティブ・キャリアカウンセリングが広がっている理由には、そうした面もあるのではないでしょうか。

 今、「自分を見直して、自分らしく生きたい」という人が確実に増えています。キャリアカウンセラーがナラティブを意識するだけでも、支援の質が高まってくるのではないかと思います。

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