本気でプロのコンサルタントを目指すなら「登録養成課程」
[2014/10/30]
経営コンサルタントの国家資格、中小企業診断士として登録されるためには、2つの道があります。ひとつは、1次試験→2次試験(筆記試験と口述試験)→実務補習(15日間)を順次すべて合格する道。もうひとつは、1次試験合格後、定められた機関で登録養成課程と呼ばれるカリキュラムを修了する道です。
診断士を目指す多くの人は、1次試験に合格すると前者の道、つまり2次試験合格に向けて学習を開始します。しかし、2次試験は1次試験同様、極めて難関です。昨年度の合格率は18.5%でした。
一方、後者の登録養成課程を受講・修了すれば、2次試験と実務補習が免除されます。ただ、けっして安くない費用が必要とされます。
この2つの道のうち、どちらを選べばいいか? その答えは、各々の目的や事情によって異なるかと思いますが、いずれにしても後悔しない道を選びたいものです。
そこで、あまり実情を知られていない登録養成課程について、どのようなメリット・デメリットがあるのかを取材しました。お話をしてくださったのは、製薬会社に勤めながらも、プロの経営コンサルタントとして幅広く活躍している林啓史さんです。林さんによると、どちらの道を選ぶかによって、診断士登録後に大きな差が出ると言います。ご参照ください。
●今回お話を聞いたのは・・・
林中小企業診断士事務所
林 啓史 さん
中小企業診断士(第2期登録養成課程修了)
CDA(キャリアカウンセラー)、カーボンマネージャー、サプリメントアドバイザー、環境経営士
製薬会社に勤務しながら、東京都中小企業診断士協会城西支部経理部副部長、品川区中小企業診断士会理事、中野中小企業診断士会(中野北口十字路商店会)、杉並中小企業診断士会(杉並区商店コンクール審査員、座高円寺審議会)、新宿区中小企業診断士会(新宿区経営賞審査員、ビジネスアシスト委員)、経済産業省商店街よろずアドバイザーなど、多方面で活躍。専門・得意分野は、マーケティング、CSR、管理会計。キャリアカウンセリングの手法を活かした経営指導・ファシリテートにも定評がある。著書多数。12月10日には最新刊『商売繁盛チェックシート〜分かりやすい店舗経営〜』(共著/三恵社)が発売予定。
今の自分があるのは登録養成課程を選んだからこそ
私は20年以上前、旧制度の商業部門の1次試験を合格しました。しかし、2次試験は4年に1度くらいのペースでしか受験せず、「もう後がない」という状況になって、2008年度に登録養成課程を受講しました。日本マンパワーの登録養成課程を選んだのは、他機関が修了まで2年間を要するのに対し、日本マンパワーは1年間で修了できるからです。
当時の私にとって、200万円以上する受講料はけっして安いものではなく、大きな勇気が要りましたが、今となっては登録養成課程を選んだのは大正解だと思っています。あの時、登録養成課程を選んだからこそ、今、プロの経営コンサルタントとして活動できていると確信するからです。200万円以上かかった費用も、ずっと以前に診断士業務で回収することができています。
登録養成課程のデメリットは、相応の費用と時間がかかることです。ただ、それとは比較できないくらい大きなメリットがあります。
すぐに使える実践力をみっちり養成される
第1のメリットは、プロの経営コンサルタントとしての即戦力が養成されるということです。それは、2次試験と実務補習を経て得られる力と比べ、より実践的なものだと思います。診断士資格を得て診断士業務をするようになってから、身に染みてわかってきました。
登録養成課程で即戦力が身につく理由はいくつかあります。
まず、経営コンサルタントとして第一線で活躍なさっている先生方から、直接指導を受けられることです。登録養成課程では、座学で理論を学ぶとともに、5回の診断実習でみっちりと実践力を身につけます。同期の受講生は24人という少数ですから、質問をすれば何でもすぐに教えていただけますし、診断士としての心構えや考え方も1から教えていただけます。
なかでも診断実習は本当にすばらしいものでした。その概要は、8人1組で実際の企業を訪問・診断し、最終的に1社につき120〜130ページほどの診断報告書にまとめ、診断先経営者にプレゼンテーションをするというものです。ところが、経験のない私たちがそう簡単にできるものではありません。先生から何度もダメ出しをされます。夜中までレポートを書き直したことも幾度かあります。ダメ出しをされる一番の原因は、私たちの診断が、先生に認められるレベルに達していないから。要するに、高い水準のコンサルティングを求められるのです。
たとえば、ある企業の診断をしたとします。8人で話し合って診断の方向性を決め、分担して報告書を書くのですが、8人のストーリーがつながっていないと、先生から書き直しを命じられます。時には、診断の方向性自体が表面的だと指摘され、もっと深層にある原因を追求して経営改善の方策を探るよう求められることもありました。
こうした実践の場を5回。異なる先生から直接指導を受けられるのは、非常に貴重な経験でした。同じ課題を抱えているケースであれば、実習で学んだことを水平展開して、すぐに実践の診断業務ができます。今でも、当時の報告書を見返して参考にすることがあるほどです。
一方、私たち受講生の側も、「この会社のために何とか役に立ちたい」と本気で考えて実習に望んでいました。みんなそれぞれ目的を持って高い受講料を支払っているわけですから、モチベーションも高いところにあります。そうした同期と切磋琢磨する中で、自分の強みや弱みも次第に見えてきます。自分のSWOT分析ができるわけです。その経験も、自分を活かすことに役立ったと思います。
強い人脈のおかげで仕事や情報が得られる
もうひとつのメリットは、人脈によって仕事の機会や有益な情報を得られることです。
診断士は業務独占資格ではありませんから、たとえ資格を得られたとしても、必ず仕事が見つかるとは限りません。それまでに関連業務を経験しているなどの基盤があれば、診断士業務に関わりやすいと思います。逆の場合は仕事を得られるような機会が見つけにくいこともあるのです。ですから、診断士資格を持っている人の中でも、実質的にペーパー資格の状態になっている人もいらっしゃるのではないかと思います。
しかし、登録養成課程で培った絆は強いため、先生や同期から仕事を紹介されることが多々あります。私自身、診断士としての最初の仕事は、先生の人脈でご紹介いただいた執筆業務でした。同期との付き合いはもっと強いので、お互いに相談する中で仕事が生まれてくることもあります。そうして得た仕事を一つひとつきちんと全うし、信頼を得ていくことを続けていれば、仕事は自然に拡がっていくのです。
また同期からは、さまざまな有用情報を得られます。先日書いた業界誌への原稿でも、普通では入手できない資料を同期から提供してもらい、質の高いものに仕上げられたと思います。こうした密接なつながりは、なかなか培えるものではありません。
登録養成課程のOB会に出席すれば、タテのつながりもできます。現在、日本マンパワーの登録養成課程OBは200人弱いるそうですが、同じ道で育まれた仲間として親近感がわくものです。これもメリットのひとつだと思います。
実践力がないと、資格取得後に再学習の必要も
今、私は製薬会社で働きながら、休日休暇を使って講師業や執筆業を中心に活動しています。CDAの資格も持っていますので、キャリアカウンセリングの手法を活かした講師業には特に自信を持っています。
その仕事のひとつに、プロコン養成塾の講師という仕事があります。プロコン養成塾とは、診断士として登録している人を対象に、プロの経営コンサルタントとしての実践力指導を提供するものです。つまり、たとえ資格を得たとしても、こうした学びの機会がなければ、プロのコンサルタントとしての実力を身につけられない人がいるということを物語っています。
その点、登録養成課程を受講すれば、こうした塾に通う必要はありません。登録養成課程そのものが、実践力を鍛える場だからです。その証拠に、私たち同期24人中、約3分の1にあたる7人もが独立開業しています。それだけの実践力と仕事の受注機会があるという証拠ではないでしょうか。
もちろん、診断士を目指す人全員が独立開業を求めているわけではありませんし、みなさん独自の目的があるかと思います。ただ、確実に言えることは、プロの経営コンサルタントとして本気で活躍したいなら、登録養成課程は非常に有効な選択肢である、ということです。少なくとも私は今、その恩恵にあずかっています。ご参考にしていただければ幸いです。
【著書のご紹介】
林啓史さんが執筆(共著)した書籍が、12月10日に発売される予定です。
『商売繁盛チェックシート〜分かりやすい店舗経営〜』(三恵社)