ちょっと一息

私にとってのキャリアと学び vol.6

組織よりも一人ひとりを大事にする生き方をしたい

[2019/08/02]

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 その人らしい生き方やはたらき方を支援する専門家、キャリアコンサルタント。その資格を取ろうとチャレンジする人の中には、60歳を超える人も珍しくありません。実際、企業などを退職してからキャリアコンサルタントになり、充実したセカンドキャリアを送っている人は数多くいます。
 平石由雄さんもその一人です。69歳の今も、行政機関の就労相談員として活躍なさっています。しかも、平石さんの目線は、常に一人ひとりの思いに向いています。相談に来る人の気持ちに寄り添っているとも言えるでしょう。人の気持ちに寄り添うことは、けっして簡単ではありません。それができるのは、おそらく平石さんがさまざまな経験から学んでこられたからだろうと思います。
 本記事では、そんな平石さんのキャリアストーリーをご紹介します。対人支援に関わるすべての人に参考になるのではないでしょうか。ぜひご一読ください。


●今回お話を聞いたのは・・・
 行政機関 就労総合相談員
 国家資格キャリアコンサルタント
 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
 平石 由雄 さん


企業内学校で学生募集と就職支援

 私は大学新卒で大手自動車メーカーに就職し、63歳までの約40年間、同社に勤めました。
 最初の配属先は系列会社の人材を教育する部門です。新人・中堅営業担当者向けの教育企画を担当しました。その仕事はとても興味深いものでした。一流講師のお話を直接聞けるからです。当時は、研修講師に心理学者の本明寛先生、カウンセリング講座講師にカウンセリング心理学者の國分康孝先生など、名立たる先生方にお願いしていました。私はまだ20代でしたが、さまざまなことを学ばせていただきました。たとえば、「態度能力」「内的な達成動機」「傾聴」などについてです。年月が経った今でも覚えているほどです。
 その後、数回の異動があり、営業職やグループ会社での管理職などさまざまな仕事を担当してきました。いわゆる企業戦士として競合他社とのシェア争いに必死になっていた時期もあります。不眠不休で働いたり、上司とぶつかったり、部下と飲み歩いたり、病気で入院したり、喜怒哀楽いろいろありました。
 最後の勤め先となったのは、自社系列の専門学校です。自動車整備士の国家資格を取り、卒業後に自社グループで働いてくれる整備士を育てるための学校です。私はそこに40歳で出向し、退職するまで23年間勤めました。担当業務は学生募集就職支援です。ここでの経験が、私の考え方を大きく変えました。


整備士を目指すA君との出会い

 あれは、私が50代後半のことです。ある高校の先生から、「うちの学生を入学させてくれないか」と相談がありました。その学生を仮にA君と呼びます。A君は自動車が大好きで、整備士になりたいとのことです。高校の勉強はあまり好きではないようでしたが、何よりも本人は自動車好きでしたので、努力をした結果、入学が叶いました。
 しかし入学後は、学業についていけない、けんかをする、担任教員の言うことをきかないなど、問題児扱いされるようになってしまいました。私は教員とは別の立場から、学校生活がうまくいかない学生には声掛け面談をするよう努めていました。寮制でマナーやルールに厳しい学校でしたから、学生は逃げ場がないからです。A君とも2人で何回も話し合いました。そして、彼の話をじっくり聴きました。すると、彼には彼なりの理屈があるのです。ただ、現実問題として卒業が危ぶまれていました。
 「何とか自動車整備士の資格を取って、就職してほしい」
 そんな思いで接しているうち、A君は私のことを信頼してくれるようになりました。整備士資格も取得することができ、就職先も決まりました。
 A君はその後、整備士のリーダー的役割となる自動車検査員の資格も取得し、スキルを磨いていきました。ところがある時、A君から「辞めたい」と相談されたのです。話を聴いてみると、どうやら上司との人間関係がうまくいっていないそうです。A君のご両親からも相談されました。
 そこで私は、別のグループ会社に転職できるよう斡旋しました。しかし、A君からは「その会社には行きたくない」という返事。後で聞くところによると、斡旋した会社では何年か後に営業担当に異動になるため、整備に関われなくなるからという理由でした。
 結局、A君は鉄道の車両検査をする職を選び、今ではそこの中堅として働いています。会社は変わっても私との付き合いは続いていて、彼の結婚式にも招待されました。


量」より「個」を重視

 このA君との出会いを通して、私が強く感じたことがありました。それは、学生を募集して一生懸命に就職支援をした少なからずの卒業生が、3〜5年で退職してしまうということです。いわゆる七五三現象を目の当たりにして、むなしくなってしまいました。
 また同時に、会社や組織の戦略よりも、個人に目を向けて職業やキャリアを考える方が本筋ではないか、とも思いました。企業戦略に組み込んで人員の「量」を確保しようすることよりも、一人ひとりの「個」の思いを大事にすべきではないだろうか。「量」より「個」を重視すべきだ。それが民主主義の精神だ。今まで、会社の方針や成果主義になんとなく違和感を抱いていたのは、「個」よりも「量」が重視されていたからだ。私は一人ひとりを大事にする生き方をしたい。
 A君の結婚式の日、私はそう確信しました。ただ、その時はまだキャリアカウンセラーとの接点を見い出せていませんでした。


「カウンセラー」に惹かれた背景

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 「退職したらキャリアカウンセラーになろうかな」と思い描くきっかけを与えてくれたのは、同業他社の採用担当者でした。彼が定年を待たずして退職するとのことで、あいさつに来てくれたのです。
 「どうして辞めるんですか?」
 「実は産業カウンセラーになるんです」
 「カウンセラーか・・」
 教育企画担当として内的な達成動機や傾聴を学んでいた、20代の頃を思い出しました。当時学んだように、外部から強制的に仕事をさせようとしても長続きはしません。A君もそうでした。本人の思うような生き方・考え方に沿った仕事でないと、人はハッピーになれない。そんな考えを持っていたせいか、「カウンセラー」という言葉を聞いた時、なんとなく強く惹かれました。
 自分は企業戦士として、モノカネの世界で何年も働いてきた。でも、果たしてそれはヒトの世界なのだろうか? 会社で決めた方向に向かって働くことは、個人の幸せにつながるのだろうか? いったい自分は何のために働いているのだろう? 私が何年も心に抱いてきた違和感葛藤が、その時にふつふつとわき上がってきたのです。
 もっとも、すぐに何かに取り組んだというわけではありません。もっと間口を広げてキャリアを捉え、退職してからじっくりと自分のやりたいことを探していきたいと考えていたからです。


詳しく理解するために勉強する

 そして退職から半年、64歳手前の時に日本マンパワーの『キャリアカウンセラー養成講座』(現在の『キャリアコンサルタント養成講座』の前身)無料説明会に申し込みました。説明会に行くと参加しているみなさんがとても熱心で、「こんなに多くの人がキャリアカウンセラーになりたがっているんだ」と驚きました。また、自分もキャリアカウンセラーになりたいという気持ちが強くなりました。なぜなら、キャリアカウンセラーとは、組織にとらわれず、一人ひとりの生き方を尊重してサポートする資格だと感じたからです。私は組織で約40年働いてきましたが、先ほども言ったように違和感・葛藤を抱いていました。ですから、「退職後は組織に束縛されず、人のお役に立てることをしたい」と思っていたのです。その思いに、キャリアカウンセラーは近いのではないかと感じました。
 もちろん、説明会に一度参加しただけですから、詳しくはわかりません。詳しく理解したいのであれば勉強するしかありません。だからこそ勉強しようと思い、『第42回キャリアカウンセラー養成講座』の受講を決意しました。2013年のことです。

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★一人ひとりの思いを大事にしながら、人の役に立つことをしたい。そのような思いを抱いて資格にチャレンジした平石由雄さんは、この後、ご自身を全否定するほどの状態に追い詰められます。平石さんのストーリーの続きは来月の同コーナーでご紹介いたします。
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